――――暗くて深い闇の中に、貴方が居る。





その闇を照らす光に、僕はなりたい・・・







紅の月







+1+



日が暮れ、城に明かりが灯る頃。


「濃姫様〜!!」


静かな城内に明るい声が響く。


「どうしたの、蘭丸くん。そんなに慌てなくても私は逃げないわよ。」


「み・・・光秀が、人間を拾ってきました!!」


「・・・・は?」


蘭丸の言葉に、濃姫の美しい顔が、微妙に歪んだ。


「どういうことなの?蘭丸くん。詳しく説明して頂戴。」


「はいっ。」


蘭丸が説明をすると、濃姫の顔色が変わった。
スッと優雅に立ち上がり、部屋を出て行く。
その後を蘭丸もついて行った。






* * * * * * * * * *






光秀はを光秀の馬に共に乗せ、城へと向けて馬を走らせた。
その間に、は、緊張の糸が切れたのか、光秀に凭れ掛かり眠ってしまった。
城に着いてもは起きる気配を見せず、光秀は「仕方ないですね」と呟き、の小さな体を抱き上げた。


「光秀、その子はどうしたの?」


「・・・拾ったのですよ。あぁ、其処の人。今すぐ湯殿の仕度をして下さい。」


光秀は濃姫の問いに答えながら、近くにいた女中に指示を出す。
そして、そのまま部屋の方へと向かった。
濃姫や蘭丸たちの抗議の声が上がっているが、光秀は素知らぬ顔をして聞き流した。


「ふふ・・・可愛いですね。」


腕の中で眠るを見下ろし、光秀はほくそ笑んだ。


『私のものになるのであれば、このまま生かしておいて差し上げます。私のものにならないと言うのならば、私に貴方を殺させて下さい。』


そう言った光秀の言葉に、


『僕は、貴方と共に生きます。貴方の御傍に居させて下さい。』


と答えた
“行く”のではなく、“生きる”と答えたのだ。
その言葉の意味を、深くは追求しなかったけれど、その言葉だけで、充分、光秀の興味を引いた。


「殺せなかったことは残念でしたけれどね・・・」


眠ってしまったを殺すことは簡単だった。
だけど、光秀はそれをしなかった。
何故かはわからないけれど、殺してはいけない、そんな気がしたのだ。


「・・・光秀様、湯殿の仕度が整いました。」


部屋に入り、を降ろすこともせずに抱きかかえたまま部屋の中央に座っていた光秀。
女中の報せを聞き、立ち上がる。


「では、入るとしましょう・・・・・・」


未だ目覚めないに声をかけ、部屋を出た。






* * * * * * * * * *






「・・・・・ん・・・・?」


目を開けると、其処は見知らぬ部屋の中。
薄暗がりの中、目を凝らすと、すぐ横に誰かが眠っていることに気づき、どきりとした。
じっと見つめ、その人物の正体を見極める。


「・・・・光、秀・・・様・・・?」


隣に眠る人物が誰なのかがわかり、安堵の溜め息を吐く。
ゆっくりと起き上がり、部屋の中を見渡した。


「・・・・・いつの間に、着いたのだろう・・・」


互いに名乗り合い、馬に乗ったところまでは覚えている。
光秀様が仕えている織田信長様が治める城へ向かうのだと話していたことも覚えている。
それからの記憶がまったく無い。
よく見てみれば、僕の着ている着物が変わっているし、肌にこびり付いていた泥や血も無くなっている。
光秀様が洗ってくれたのだろうか・・・


其処まで考えてはっとする。
僕は何てことをさせてしまったのだ。
突然のこととは言え、忠誠を誓った主に、自分の身を洗わせるなど・・・身の程知らずもいいところだ。


「光秀様にお詫びしなければ・・・」


部屋に運び入れてくださったのも、光秀様なのだろう。
しかも、その間、ずっと眠っていたこととなる。
無礼極まりないこの行い。
さすれば、どのような厳罰を言い渡されても受け入れなければならない。


「・・・・・。何をしているのですか。」


不意に聞こえた声に、僕は飛び上がった。
ちらりと目を向けると、眉を顰めて僕を見ている光秀様の目と合った。


「光秀様・・・・この度は、とんだ御無礼を致しまして、申し訳御座いませんでした・・・。」


姿勢を正して深々と頭を下げる。


「気にしなくても良いですよ。貴方はもう、私のものですからね。ククッ・・・」


「しかし・・・・・んっ」


起き上がった光秀様に引き寄せられたかと思うと、唇に何かが触れた。
接吻されたのだと気づくまでの数秒の内に、着物が肌蹴られた。


「・・・・貴方はこうして、私の下で大人しくしていれば良いのですよ・・・」


どさりと布団に倒されて、両腕を押さえ付けられる。


「・・・・・わかり、ました・・・・・仰せのままに・・・」


ギュッと目を瞑り、震える声でそう言った。


「良い子ですね、。」


愉しげな光秀様の御声に、僕の胸は高鳴った。
この御方になら何をされても構わないと、そう言うかのように。



御免なさい、父様・・・


御免なさい、母様・・・


御免なさい、姉様・・・




僕は、この御方を愛してしまいました。




――――貴方が悦ぶのならば、僕はこの身を捧げます。愛しい貴方の為に・・・





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+あとがき+

何故か微エロちっくになりました・・・
これ以上先の表現をすることは多分、ありません。