優しさと裏切りと
アイツと付き合うようになってどれくらい時が過ぎたのだろう。
いつだったか、アイツに好きだと告白されて、仕方なく付き合うことにした。
俺は今まで、大して恋愛沙汰に興味がなくて、告白された時もいまいちピンとこなかった。
特に気になる相手もいなかったし、あまりにもしつこく言われたから、頷いただけ。
スキとかキライとか、そういう感情が生まれるほど関わったわけじゃない。
なのに、アイツは俺のことを好きだと言い切った。
「丸井くん!来たよ!」
放課後の練習が始まる少し前に、いつも現れるのは氷帝学園の芥川慈郎。
授業が終わる時間は、ウチとあまり変わらないはずなのに、コイツは何故、授業が終わるとここに居るのか。
「・・・・お前、ちゃんと学校行ってンのか?」
なんとなく、気になって聞いてみただけ。
「行ってるよ。俺のこと心配してくれるなんて、優しいね。」
それでも慈郎は嬉しそうに笑う。
「・・・俺は別に優しくなんかねぇよ。」
ふいっと視線を外して、足を踏み出す。
向かう先はテニスコートではなく校門。
今日は何だか、テニスをする気分じゃない。
「丸井くん丸井くん!部活は?出なくていいの?」
パタパタと俺の後についてくる慈郎。
「今日は気分じゃねぇ。そういうお前は、自分のガッコ戻んなくていいのかよ。」
真田に怒られることは必至だが、こんな気分のまま練習したって成果はないだろうし、何しろ他の奴らに迷惑がかかる。
「俺は体調不良で休むって言ってあるからいいの!」
何がそんなに楽しいんだか、始終、慈郎は笑っている。
「そう言ってお前、ずっと行ってねぇだろぃ。レギュラーから落とされちまうンじゃねぇの。」
大した意味もなく言っているだけなのだが、慈郎は嬉しいらしい。
「何か、今日の丸井くん、いつもより優しいね。ずっと俺の心配ばっかりしてる。」
「・・・・・心配してるわけじゃねぇよ。」
そう。俺は別に慈郎の心配をしているわけではない。
毎日毎日、会いに来られては迷惑なだけだ。
それに、慈郎は息をつく間もないくらい喋るから、時々、かなり煩いと思う。
「そうだ、新人戦・・・」
1年生の時の新人戦の日。
初めて会ったのは、その日だった。
そして、慈郎は俺を目標だと言った。
「え?何か言った、丸井くん?」
ボソリと呟いた言葉に反応した慈郎。
俺は何も言わずただ足元に視線を落として歩いた。
* * * * * * * * * *
どれくらい歩いただろうか、気がつけば、見たこともない道に居た。
俺の後ろには相変わらず慈郎が居た。
「丸井くん、どこまで行くの?」
日は既に沈んでしまい、道路の所々に設置された街灯がポツポツと明かりを灯している。
「ねぇ、丸井くん?わっ・・・」
ぴたっと足を止めると、背中に慈郎がぶつかった。
チラッと視線だけ後ろに向けると、慈郎は、ぶつけたらしい鼻をさすっている。
「お前さ、何でついてくンの?」
慈郎に背を向けたまま問いかける。
「何でって・・・今日の丸井くん、調子悪そうだし、ドンドン歩いてっちゃうし・・・心配だから・・・。」
いつもの慈郎からは想像も出来ないような暗い表情だ。
見知らぬ道に来てしまって、不安になっているのだろう。
「ふぅん・・・」
「丸井くん?」
くるりと向きを変え、慈郎と向き合う。
そして、抱き寄せて深く口付ける。
「・・・ま・・・るい、くん?」
ぎゅっと腕に力を込めると、慈郎が痛みで呻いた。
「お前さ、前、俺の言うことなら何でも聞くって言ってたよな?」
告白されたばかりの頃、慈郎がいつもそう言っていたことを思い出した。
「え?う、うん・・・」
戸惑い気味に頷く慈郎。
「俺、お前のこと嫌いだからさ・・・別れてくンない?そンで、二度と俺の前に顔見せンな。じゃあな、バイバイ。」
軽く笑って、突き飛ばすように慈郎の体を押す。
片手で軽く押しただけなのに慈郎はあっけなく転び、尻餅をついた。
そして、大きく目を見開いて俺を見上げていた。
「丸井、くん?どうして・・・俺は、丸井くんが好きだよ・・・・」
震える声でそう言った慈郎は立ち上がろうともせず、ただただ俺を見つめて、静かに涙を零した。
「俺はお前なんか嫌いだ。」
最後にもう一度言って、歩き出す。
慈郎は後を追っては来ない。
(俺は本心を告げただけ。なのにどうして・・・)
胸の奥がチクリと痛んだ。
慈郎の泣き顔が頭に浮かぶ。
「・・・俺は慈郎なんか嫌いだ。」
――――真っ暗な空に向かって吐き出した想いは、自分に言い聞かせるため・・・・
*おわり*
+あとがき+
ブン太が偽者・・・
初書きブンジロです。
お題に合っているのか、よくわかりません。。。