憎い程好きだった
何であのクソ生意気なチビが気になるんだろう。
1年生のくせに先輩達から可愛がられているのが頭にくる。
ただそれだけだ。
「・・・・・アンタ、また来たの。」
生意気な瞳が俺を見上げている。
それは青学1年、越前リョーマ。
「・・・・来たくて来たんじゃねぇよ。」
俺が居るのは、青学の校門の前。
バスに乗っていて、つい居眠りをして、降りる予定のバス停を寝過ごしてしまった。
そう言い訳をしたのは何度目だろうか。
「ふーん。」
コイツとは、俺が青学に来るたびに、必ず会っている気がする。
まるで、俺が来ることがわかっているかのように、タイミングよく、いつも現れる。
「・・・・・じゃあな。」
短く言い残して、青学から離れようとした。
くいっとシャツの裾を引かれ、俺は前へ進めなかった。
「離せよ。」
振り返り、冷たく言い放つと、越前はハッとしたように慌てて手を離した。
そして、
「早く帰れば?」
帽子を深く被りなおし、そう言った。
その声は淡々としていて、何故かとても腹が立った。
「お前に言われなくても帰る。」
苛立ちを隠さず言い捨て、俺は早足でその場から離れた。
* * * * * * * * * *
あれから、しばらくの間俺は青学へは行かないように気をつけていた。
だけど、その間もずっと、越前のことが頭から離れなかった。
「赤也、何やってんだよ。」
ジャッカルに腕を引かれて、我に返ると、目の前に下りの階段があった。
「ボーっとしてんなよ。」
あたりを見渡して、そこが駅のホームだということに気づいた。
(そういえば、買い物しに来てんだっけ・・・)
そして、ジャッカルの買い物について来ていることを思い出した。
ジャッカルが青春台の方へ行くと言うから、つい、一緒に行くと言ってしまったのだ。
もしかすると、アイツに会えるかもしれないから・・・
「おい、赤也!行くぞ?」
さっさと先を行くジャッカルに駆け足で追いつき、並んで歩く。
ふと、横に視線を向けて俺は驚いた。
少し離れたところにある柱の陰で、人目を忍ぶように重なり合う2つの影。
キスしていることはすぐにわかった。
その片方の顔がチラッと見えて、俺は愕然とした。
それは、越前リョーマだったのだ。
もう一人の顔はわからないが、青学の制服を着ている。
しかも、セーラー服ではなく学ラン。
体格は越前とはまったく違って、がっしりしている。
行き交う人達は、その2人に気づかず、通り過ぎてしまう。
だけど、俺は目が離せず、じっと見つめてしまった。
「赤也、どうしたんだ?」
ジャッカルに呼ばれるのと同時に越前が目を開けた。
一瞬、目が合ったような気がして、俺は慌てて視線を逸らした。
「・・・何でもない。」
ジャッカルを引っ張って、一目散に駅を走り抜けた。
「ちょ、おい!!赤也!!」
ジャッカルの非難の声など耳に入らない。
頭のなかには、さっきの越前のキスシーンが浮かぶだけ。
胸が、痛い。
思い出せば思い出すほど胸が痛む。
そして、同時に、無性に腹が立った。
「くそっ・・・何で!!」
裏道に入ったところで立ち止まり、近くにあった塀を思い切り殴りつけた。
「一体、何なんだよ?何かあったのか?」
胸の痛みと苛立ちの原因がわからなくて、俺はその場で蹲った。
(確かめに、行かなければ・・・)
越前に会えば、この痛みと苛立ちの原因がわかるかもしれない。
そう思った。
* * * * * * * * * *
翌日、俺は青学へ向かった。
今度はしっかりと目的を持って。
「・・・・・・また、来たの。」
やはり越前は現れた。
今日は何故か、おとなしい。
いつもなら、挑戦的な眼差しで見てくるのに。
「・・・別にいいだろ。お前には関係ない。」
そう言ったものの、声が掠れてしまい、越前の耳には届かなかったようだ。
「・・・・ねぇ・・・」
越前は俺を見上げたまま、何かを言いかけて途中でやめた。
「何だよ。」
俺が苛立ちを隠さず言うと、
「・・・何でもない。」
越前は小さくそう言った。
「・・・そうかよ。」
俺は昨日のことをどう切り出そうか迷った。
その挙句、何も言い出せず、しばらく沈黙が続いた。
「あ、いた!越前!!何してんだよ。探しただろ?」
誰かの声がして、俺も越前も声のした方を見た。
「・・・・桃先輩。」
越前がボソリと言い、俺は昨日感じた痛みと苛立ちの原因がわかった。
それは、“嫉妬”
越前が俺じゃない他の誰かと親しくしているのが気に入らないのだ。
目の前で、越前は桃城と仲良く話しをしている。
今まで、俺に向けられたことのないような顔をして。
「・・・・・そうか。」
やっと、気づいた。
何故、越前のことが気になっていたのか。
何故、越前を憎んだのか。
何故、胸が痛いのか。
その全てが、嫉妬によるものだったのだ。
俺は、越前のことが好きなんだ・・・
「・・・今更じゃねぇか。」
そう。今気づいても、もう遅いのだ。
越前は既に、他人のもの。
「・・・越前リョーマ!」
俺が呼ぶと、越前も桃城も俺を見た。
「・・・俺はお前のことが好きだったぜ。」
自嘲気味に笑って、そう告げた。
越前が驚いて目を見開く。
初めて見た、その表情でさえも、愛しいと感じてしまう。
それと同時に、憎しみが湧き上がる。
「俺は、それを言いに来た。ただそれだけだ。」
そう言い置き、俺は踵を返した。
「馬鹿だよな、俺も・・・」
駅に向かって歩きながら、つま先を見つめ、ポツリと呟いた。
*おわり*
+あとがき+
時期がよくわかりませんが、秋か冬でしょう・・・タブン;
片思い編(?)です。