言えなかった言葉
“出会いがあれば、別れがある。”
たとえ、幼い頃から一緒に過ごしてきた人でも、いつかは離れなければならない時が来る。
あの頃、小学生だった僕らは、ただ、大人の決めたことだから、と納得せざるを得なかった。
『・・・必ず、遊びに行くね。』
『あぁ、いつでも来いよ。待ってる。』
別れの日、僕も佐伯も文句一つ言わず、互いにサヨナラを告げた。
裕太は泣くまいと必死に堪えていた。
そんな裕太を見て、僕は羨ましく思った。
佐伯も同じことを思っていたかもしれない。
別れを惜しんで泣くなんてことは、僕や佐伯にはできなかった。
あの日から数年が経ち、中3の夏、関東大会で敵対することになった。
試合は青学が勝った。
「不二、一緒に帰らないか?」
試合が終わって、帰る仕度をしていると、佐伯に声をかけられた。
「うん、良いよ。」
カバンを持って、大石に声をかけてから抜け出した。
「・・・・こうやって、二人で話すのは久しぶりだね。」
ゆっくり歩きながら、隣の佐伯に話しかける。
「そうだな。・・・元気そうで安心したよ。」
佐伯が頷き、そう言った。
「佐伯の方こそ。」
二人で他愛もない話をしながら歩いていると、昔に戻ったような気になる。
そう思っているのは僕だけかもしれないけれど。
「そういえば、裕太は元気?」
「元気だよ。最近は少しずつ家にも帰ってきてくれてるから嬉しいよ。」
「そうか。・・・不二は本当に裕太が好きなんだな。」
「弟だからね。」
――――裕太のことはとても大切だけれど、それ以上に僕は佐伯のこと・・・
思わず言いそうになって、僕は口を閉ざした。
「・・・・昔から、俺の入る隙は無かったよなぁ。」
「え?」
佐伯の言葉に胸が弾んだ。
――――もしかして、佐伯も・・・?
「・・・なんてな。冗談だよ。」
だけど、すぐに否定されてしまい、淡い期待は崩れ去った。
「・・・・また試合したいね。」
ショックを受けていることを気づかれないよう、平静を装って話を変えた。
「あぁ、今度はシングルスで戦いたいな。今度は負けないぜ。」
何とか気づかれなかったみたいで、佐伯も話に乗ってきた。
「僕も負けないよ。」
駅前に着き、二人で向き合う。
「・・・じゃあ、僕はここからバスだから。」
本当は電車でも帰れるけれど、これ以上佐伯と一緒にいたら、言うつもりの無いことまで言ってしまいそうで怖い。
「そうか。じゃあ、またな。」
佐伯は何の疑いも無く、そう言った。
「うん、またね。」
軽く手を振って、佐伯を見送った。
駅の中へと歩いていく佐伯の背中を見て、込み上げてくる想いを必死で抑えた。
本当はあの別れの日に言いたかった言葉。
――――僕は佐伯のことが好きなのだ、と・・・
*おわり*
+あとがき+
佐伯と不二が幼馴染だって言う設定はアニメでしたっけ・・・?
不二の片想いです。
佐伯は不二のことを一体どう思っているんだろうか・・・