桜舞う4月の初め。
中学2年生に進級した俺たちは、生まれて初めて同じクラスになった。
驚きと喜びが同時にやってきて、始業式の日はかなりテンションが上がった。
隣にいた若は、憮然たる面持ちでクラス替えの掲示を眺めていた。






新学期が始まって、1週間。
せっかく同じクラスになれたのに、若と一緒にいる時間が以前よりも減った気がする。


「つまんないな・・・」


放課後、屋上に出てみると、珍しく誰も居なかった。
グラウンドが見渡せる側のフェンスに近づき、テニスコートを見下ろした。


「あ、いた。」


テニス部の練習が既に始まっていて、テニスコートで打ち合っている若の姿を見つけた。


「頑張ってるなぁ。」


俺は若と違って、何かに熱中するってことが滅多にないから、部活をやりたいとは思わない。
唯一、続けているのが、古武術。
幼い頃からずっとやり続けているから、今更辞めようとは思わなくて、一日でも稽古を休むと体の調子が良くない。
だけど、若がテニス部に入り、一緒に稽古をすることがなくなってからは、やる気が出ない。
今日も帰ったらすぐに稽古があるのに、俺は学校に居残り、こうして屋上からテニス部の様子を眺めているのだ。


「俺はいつでも若と一緒にいたいのに、若はそうでもないのかな・・・」


不意に胸を過ぎった不安。
考えないようにしてきたのに、ふとした瞬間に浮かぶ疑問。
フェンスにもたれかかって座り、思いを吹っ切るように頭を振った。


「考えたらダメだ。」


そう呟いて目を閉じた。






* * * * * * * * * *






「・・・・・・きろ。、起きろ。。」


体を揺すられ、意識が浮上した。
朦朧とする意識のまま、目を開けると、すぐ近くに若がいた。


「若・・・?あれ?」


よく見ると、もう空は真っ暗だった。


「あれ、じゃないだろう。こんなところで寝て、風邪を引いたらどうするんだ。ただでさえ、人一倍、風邪引きやすいくせに。」


若はそう言って、眉間に皺を寄せた。


「うん、ごめん。つい・・・」


「ほら、立てよ。帰るぞ。」


差し出された手を取り、勢いをつけて立ち上がった。
握った手を離すのが惜しくて、ぎゅうっと力を込めると、若が眉を寄せて訝しげに俺を見た。
だけど、振りほどくことなく、そのまま歩き出した。
手をつないだまま、いつもよりゆっくりとしたペースで歩く俺。
若は文句も言わず、俺に合わせてくれた。


「・・・・なぁ、若。」


「何だ?」


ポツポツと街灯が灯っている、静かな住宅街を二人で歩くのは久しぶりかもしれない。
そういえば、と思い出したことがあった。


「何で、俺が屋上にいるってわかったの?」


隣を歩く若の顔をチラッと見ながら問いかける。


「・・・練習中、何となく屋上を見上げたら、お前の姿が一瞬見えたんだ。さすがにこんな時間までいるとは思わなかったんだがな。」


と言った。


「よくわかったね。あんなに離れてるのに。」


「わかるだろ。生まれたときから一緒なんだぞ。」


「それもそうか。俺も、若のことすぐわかるもんな。」


「お前は、何で屋上にいたんだ?そんなに学校が好きと言うわけでもないだろ。」


若は俺のことをよくわかっている。
普段、俺が、どうやって学校をサボろうか考えていることも知っているのだ。
学校より家が好きだと思われているような気もするが。


「一人で稽古するのがイヤだったんだよ。」


「・・・父さんや兄さんがいるだろ。」


家の道場で師範をしている父と兄。
別に嫌いではないのだけれど、若ほど好きでもない。
というか、構われすぎて鬱陶しい時があるのだ。


「・・・若がいないのがイヤなんだよ。」


俺は学校が嫌いなわけでも、稽古が嫌いなわけでもない。
若がいない空間が嫌いなのだ。
だから、仮に学校をサボって家にいたとしても、そこに若がいなければ意味がないのだ。
それを若は知ってか知らずか、俺をほったらかしにして、毎日テニスに勤しんでいるのだ。


「・・・・そうか。」


若は決して俺の言葉を否定したり拒んだりしない。
すべて肯定して認めてくれる。
そういうさりげなく優しいところが大好きなのだ。


「だが、父さん達は絶対怒ってると思うぞ。」


父さんと兄さんが頭に角を生やして、道場で待ち構えている姿を想像し、身震いした。
きっと、何時間も説教が続くに違いない。


「・・・・・若、一緒に来てくれるだろ?」


「・・・・・はぁ、仕方ないな。」


若はこれ見よがしにため息を吐いた。


「やった!ありがとう、若!大好き!」


全身で喜びを表し、若に抱きついた。


「・・・危ないだろ、。」


よろけながらも何とか踏みとどまった若が、不機嫌そうにそう言った。


「ごめんごめん。さぁ、張り切って帰ろう、若。」


若を解放して、もう一度手をつなぐ。


「ったく・・・」


若は呆れながらもしっかりと握り返してくれた。
その手のぬくもりが、じわじわと伝わってきて、心までもがあったかくなって。
ずーっとつないでいられたらなぁと、そう願った。




*終わり*




+あとがき+

ブラコンっぽく見えますか?
名前変換、あまり意味がないですね・・・

<アンケート結果より>
*学校→氷帝
*相手→日吉
*主人公→双子の弟、同級生
*設定・傾向→ちょいエロ(無理でした・・・スミマセン)