真夏の夜の夢




+7+



「せやったら、滝に負けんように俺ものこと色々知っとかんと・・・・」


「えぇ!?良いよ、ゆっくり知ってくれれば・・・・」


「俺の知らんことをアイツらが知っとるんわ癪やし、にも俺のこと知ってほしいねん」


「えー・・・・じゃあ、一つずつ質問し合おうよ」


僕は渋々承諾した。


「ほな、まずは誕生日な。俺は・・・・」


「知ってる。十月十五日でしょ?血液型はA型で、映画が好き」


「何で知っとるん?」


「忍足は女の子に人気だから、あちこちで女の子たちが話してる。去年も一昨年も誕生日はすごいことになってたでしょ?」


「・・・・・・そうか・・・はずっと俺のこと見とってくれたんやな」


忍足がしみじみとそう言ったため、僕は恥ずかしくなった。


「・・・は?誕生日はいつなん?」


「僕は五月だよ。五月五日。ジローと同じなんだ。血液型は忍足と同じA型だよ」


「今年は終わってもうたんやな。来年こそは祝おうな」


忍足は来年も一緒にいようと暗に約束してくれた。


「・・・・・・うん。今年の忍足の誕生日は、僕が何かお祝い考えておくね」


「あぁ。楽しみにしとるよ。・・・・・・以外からは何ももらわん」


「ふふ・・・・ありがとう」


「・・・・は何か部活入っとるん?」


「僕は美術部に入ってるよ。絵を描くのが好きなんだ。休みの日はよく色んなところに出かけていって絵を描いてる。この前の関東大会も見に行ったよ。・・・・・忍足がテニスしている姿を描いてた」


僕がそう言うと、忍足が大きく目を見開いた。


「・・・・・青学に負けた試合まで見られとったんか・・・・」


「うん・・・・すごく悔しかった。でも、今回、特別枠で全国大会に出られるようになったでしょ?僕、自分のことのように嬉しかったんだ。忍足がまたテニスをやれるんだと思ったら嬉しくて、思いが通じなくても良いから、今度は一番前の席で応援しようと思ってた」


「そうか・・・おおきにな。どんな言葉よりも嬉しい。次は負けへん」


「うん。応援してる」


僕が頷くと、忍足に肩を抱き寄せられた。


「なぁ・・・・って呼んでえぇか?」


耳元で囁くようにそう言われた。


「何言ってんの、さっき名前で呼んでたじゃない」


「そうやったか?全然無意識やったわ」


「無意識ってことは、心の中ではずっと名前で呼んでくれてたの?」


「・・・・そうや。ホンマは、昔、話しかけてもろたときも嬉しかったんやけど、恥ずかしゅうて顔も見れんくて、名前すら呼べんかった。そしたら、いつの間にか話しかけてももらえんようになって・・・・あのときはショックやったわ。自業自得やってわかっとったけど、やっぱショックなもんはショックやった」


「そうなの?僕ずっと、忍足のことが好きで、だけど、忍足には嫌われてるもんだと思ってて、話しかけたら迷惑なのかなって思って話しかけるのやめたんだよ」


「・・・・・せやったら、俺らはずっと両思いやったんか?そうと知っとったら、ウジウジ悩まんとアタックしとったのに・・・・」


忍足はそう言うとガックリと項垂れた。


「・・・・・でも、あのとき、話しかけるのやめてなかったら、こんなにも好きにならなかったかもしれない」


「ん?」


忍足が不思議そうに僕を見た。


「遠くから見てる方が想いは強くなるものなんだなって思ったんだ」


離れて見ていると、忍足の色んな面が見えてきて楽しかった。
その中には、近くにいたら気づかなかったこともあるだろう。


「そうか?・・・・・・言われてみればそうかもしれんな・・・・」


忍足は少し考え込んで、納得したように頷いた。


「そういったプロセスがあったからこそ、絆は深まっていくんじゃないかと僕は思う」


「確かに、そうかもな。人の出会いが偶然か必然かはわからんけど、その後の流れには何かしら理由があるはずやもんな」


「そうだよ。だから、あのときの僕たちの選択はこうなるための準備だったんじゃないのかな」


「ロマンチストやな、は」


「・・・・ダメかな?忍足はこういうの嫌い?」


「いいや、大好きや。俺も案外ロマンチストやで。ロマンチスト同士、うまくいくやろうな」


「・・・・うん、そうだね」


そうして、僕たちはどちらからともなく唇を合わせた。
手首にかけた袋の中で、金魚がピチャリと跳ねた。



*終わり*


+あとがき+

思ったより長くなってしまいスミマセン。
予定ではこの半分もなかったはずなんですが・・・うまくまとまらなくてズルズルと続いてしまいました。
結局、うまくまとまっていない気もしますが・・・。
忍足姉はこんなキャラだったら良いなーと思いながら書きました。