愛してくれる?





『好きだ』とか『愛してる』って言うのはいつも俺。
アイツは絶対そんなことを口にしない。
じゃあ、何で付き合ってるのかって?
そんなの俺が聞きたいくらいだ。
『いつもいつも振り回されて迷惑だって思ってるんならさっさと別れれば?』って、深司に言われた。
そんなこと言われなくても、俺が一番よくわかっている。
それなのに・・・・・別れられないのは、多分。



俺が跡部を好きだから・・・



バカだよな俺って。
嫌な男なのに、どんどんどんどん好きになって、溺れていく・・・
愛されてないってわかってるのに、どこかで、跡部は俺を愛してくれてるって信じてる・・・
だから、跡部から離れられない・・・跡部に依存してしまっている。
今だって、ほら・・・・跡部に会いたがっている。
早く、早く、早く、早く・・・・跡部に会わせて・・・・・・






* * * * * * * * * *






「クソッ・・・・・・」


俺は息を殺して廃小屋に隠れ、窓から外の様子を窺った。
小屋から少し離れた地点を行き交うのは同じテニス部のメンバー・・・仲間だったはずの奴らだ。
今、俺たちがやっているのは・・・・・・・


殺し合い。


所謂“バトルロワイヤル”というものだ。
これは映画や小説の中だけのもののはずだった。
なのに、それに触発された馬鹿な大人が俺たちを騙して、この無人島まで連れて来たのだ。
この島には今、俺たち氷帝を始めとした各校のテニス部員たちが居る。

氷帝は俺の他に忍足・向日・宍戸・鳳・樺地・日吉・滝・ジロー。
青学の手塚・不二・大石・菊丸・乾・河村・桃城・海堂・越前。
立海の真田・柳・切原・柳生・仁王・丸井・桑原・幸村。
聖ルドルフの観月・赤澤・柳沢・木更津・野村・不二・金田。
山吹の千石・南・亜久津・新渡米・喜多・東方・壇・室町。
六角の佐伯・樹・天根・黒羽・葵・木更津。
不動峰の橘・石田・伊武・桜井・内村・森・・・そして、神尾。



俺たちは、合同合宿だと聞かされていた。
しかし、着いた先は合宿所などではなく、無人島。
皆が呆然としている中、殺し合いをするように命じられた。
その途端、仲間だと信じていた者たちが変わったのだ。




窓の外を見ながら、俺はアイツ・・・神尾を探す。


「何処に行ってるんだ、アイツは・・・。」


時折、誰が死んだ、というアナウンスが入る。
告げられる名前の中には知り合いや部活の仲間も居た。
だが、その中に神尾の名前はなかった。
俺は安心すると同時に不安になる。
アイツは、誰かを殺めたのだろうか、と・・・。
アイツの手だけは汚したくない。汚させない。


「この場所もそう長くは居られねぇよな・・・」


俺は次の場所へと移動することにした。
窓の外の人が疎らになったのを確認すると、俺は気付かれないようにそっと外に出た。
茂みに身を潜めながら、先に進む。



ガサッ



小屋から随分と離れた場所まで来ると、俺の進行方向の茂みから物音がした。
俺は咄嗟に銃を構えた。すると・・・


「あ・・・・とべ・・・?」


茂みから出てきたのは神尾だった。


「神尾・・・・・」


俺は構えた銃を下ろした。


「跡部・・・・っ・・・会えて良かった・・・・」


神尾はその場に崩れ落ちた。
俺はそっと神尾を引き寄せた。




* * * * * 




俺は、跡部の部屋で見た映画の内容を思い出した。
結末は何だったっけ・・・と考えていたら、大勢の人に囲まれていた。
最初から一緒に行動していた深司が、俺に逃げろと言った。
俺は親友を置いて逃げられるはずが無いと言った。
だけど、深司は、


「後から行くから、先に行って。俺を信じて。神尾は死なないで・・・


と言った。
だから俺はその言葉を信じて、先に逃げた。
人が居ない場所を見つけ、隠れて深司を待った。
絶対に、来ると信じていた。
その数分後、流れたアナウンスを聞くまでは・・・。
そのアナウンスは、深司の死を告げるものだった。

俺は走った。必死で走った。
戻ろうかどうか迷ったけれど、さっきの奴らがまだ居るかもしれない、そう思ったら戻れなかった。
不意に跡部のことを思い出した。
跡部は今何処で何をしているだろうか・・・
もう誰か殺したのだろうか・・・
今、会いに行ったら、殺されるのかな?


俺は・・・・もし誰かに殺されるなら、跡部が良い・・・


そう思ったら、会いたくなった。
ううん。ずっと、跡部に会いたいと思ってた。
こんなことになっちゃって、もう会えなくなるかもしれない恐怖と、独りぼっちになってしまうかもしれない不安が入り混じって、俺は気が狂いそうだった。


その時、茂みの向こう側に人の気配を感じた。
そっと覗き込むと、其処にはよく見知った顔が居た。
思わず、茂みから姿を出してしまった。
その瞬間、跡部の銃口が俺に向けられた。


「あ・・・・とべ・・・?」


「神尾・・・・・」


俺の姿を確認すると、跡部は構えた銃を下ろした。


「跡部・・・・っ・・・会えて良かった・・・・」


俺はホッとして力が抜けてしまった。
すると、跡部に体を引き寄せられて、抱きしめられた。






* * * * * * * * * *






どれだけ時間が経ったのだろうか・・・
1時間かもしれないし、たったの5分かもしれない。
それでも俺には・・・否、俺たちにはとても長く感じられたのだ。


「・・・・・なぁ、跡部・・・これからどーすんの?」


俺にしがみつくように抱きついていた神尾がボソッと言った。


「そうだな・・・・」


今居る場所は、小さな洞穴だ。
神尾と逢えたすぐ後、雨が降り出した。
神尾の小さな体を抱えて、俺は雨宿りできる場所を探した。
誰も居ないことを確認して、俺たちは洞穴の奥へと入った。
2人、身体を寄せ合いながら、お互いのぬくもりと鼓動を感じながら、生きているのだと確認して・・・
お互いの存在を、忘れないために・・・


「場所、変えるか・・・」


この場所ももうすぐ駄目になる。
そんな予感がした。


「うん・・・」


俺は神尾が頷くのを確認して、立ち上がった。
くいっと服の裾が引っ張られ、見下ろすと、神尾が俺の服の裾をつまんでいた。


「・・・どうした?」


徐々に神尾の目が見開かれていく。
見開いた目の示す方角を俺はゆっくりと振り返った。


「・・・・・・忍足。・・・向日か?」


洞穴の入り口に、忍足が立っていた。
ぐったりと目を閉じている向日を抱えて。
その向日の脇腹は血で染まっていた。
そして、もう生きていないのだと悟った。
それでも忍足は向日を手放さなかったということだろう。


「・・・・・なぁ、知っとるか?もう、俺らしか生きてへんのやで。」


うっそりと忍足は笑った。
途端に、神尾の身体が引き攣るのを感じた。
怯えているのだ。


「・・・・そうかよ。」


俺は神尾を引っ張り立たせた。


・・・・・・いつでも逃がすことができるように。


「あと・・・べ?」


不安げな瞳が俺を見上げる。


「大丈夫だ。安心しろ・・・」


「何コソコソ喋っとんねん!?」


いつもは冷静な忍足らしからぬ様子だ。
恐らく、向日を守れなかったという悔いが忍足を苦しめているのだろう。

そう考えて、俺はどうなんだろう、と思った。
今はまだ、俺も神尾も生きている。
しかし、もし、目の前で神尾が殺されるようなことがあったら・・・?
否、そんなことがあってはいけない。
そんなことが起こらないようにしなければならない。
そのために、俺が出来る事は何なのか。


「神尾は下がってろ。」


「え、跡部!?」


俺は神尾を背中で庇うように前に出た。






* * * * * 






「・・・・何や、跡部。やる気なんか?」


「・・・そうだと言ったら?」


跡部の背中で忍足さんの顔は見えなかったから、忍足さんの表情は判らない。
でも、跡部が忍足さん挑発していることだけは判った。


「・・・・・・・・生憎俺は、守らなければならないものを守れないほど柔な男じゃないからな!!」


跡部のそのセリフは決して口にしてはいけなかったことだ。
いくらバカな俺でもそれくらいは判る。
忍足さんは、恋人である向日さんを守ることが出来なかった。
それを相当悔やんでいることくらい、跡部なら判っていたはず。
否、判っているからこそ、ソレを口にしたのか。


「何やとぉっ!?」


激昂した忍足さんの声と同時に跡部が走り出した。
忍足さんも跡部に向かって走り出す。



そこから先は一瞬の出来事だった。
跡部と忍足さんが衝突したかと思ったら、呻き声と同時に2人が崩れ落ちた。
見る見るうちに地面に血溜まりが広がった。


「あ・・・・跡部!!!!」


俺は慌てて跡部に駆け寄った。


「跡部!!跡部・・・・っ!!!」


俺が叫ぶと、跡部は忍足さんに刺された脇腹を手で抑え、唸りながらもゆっくりと体を起こした。
慌てて跡部の体を支えると、跡部は地面に突っ伏して傷口を抑えている忍足さんを見た。


「・・・・早く、アイツの・・・向日の、ところに行ってやれ・・・・忍足・・・」


そう言って、跡部はポケットに入れてあった拳銃で、忍足さんを撃った。


「あ、とべ・・・・・?」


俺はビックリしすぎて息をするのを忘れていた。


「神尾・・・・」


跡部の視線が俺に向けられる。


「あ・・・そ、そうだ。傷!!手当てしなきゃ・・・・」


俺は慌ててリュックをひっくり返した。
傷口の手当てに使えそうなものを探し、手にとった瞬間、跡部に抱きしめられた。


「あ、跡部?傷に響くだろ・・・・跡部?」


跡部は何も言わずにただ力強く俺を抱きしめている。


「あとべ・・・?どうし・・・・」


言いかけた言葉を遮られ、唇を奪われた。
深く、貪るように口付けられ、俺は泣きたくなった。


もう二度と、このぬくもりを、跡部のすべてを感じることは無いんだと、唐突に悟った。
跡部も、そう思ったのだろう。跡部の俺を抱く手に力が入った。


息も出来ないくらい深く口付けて。


「神尾・・・・・・・お前は・・・お前は、生きろよ・・・」


「・・・・あとべ?」


苦しそうに、それでも力強く、跡部は言った。


「お前は、生き抜いてくれよ・・・・」


ふっと跡部の身体から力が抜けた。


「跡部っ!?」


跡部は俺の方へと倒れこんできた。


愛してる、アキラ・・・・・・


跡部の唇が、音も無く動いた。
ゆっくり、ゆっくりと想いを込めるように・・・





初めて聞いた、跡部から俺への告白。――――



――――俺のことを、愛してくれていると教えてくれた。




もっと、いっぱい聞きたかった、言葉。――――




――――もっと、いっぱい伝えたかった、言葉。




もう、二度と戻らない、至福の瞬間(とき)。――――




――――それでも、この先も、2人で幸せになれると信じた。





「っ・・・・お・・・おれも、あいしてる・・・・・・・あとべ・・・」


止めどなく溢れる涙をそのままにして、俺はもう二度と動くことのない跡部の身体を抱きしめた。


洞穴の外はまだ、雨が降っていた。











「しっかり生きろよ。俺の分まで、生きろ。」











どこか遠くで、跡部の声がした・・・・









*おわり*




+あとがき+


ついにやってしまった・・・バトテニ・・・。
バトロワ、読んだことも無ければ見たことも無いんで、色々間違ってるところもあると思いますが、ご愛嬌ということで・・・。
書きたいことがたくさんありすぎて、途中で切るに切れなくて、同一ページでまとめちゃいました。(苦笑)
しかも、お題からかけ離れている気が・・・