梅雨とは名ばかりの6月。
晴れ渡った空を見上げる彼の姿に僕は淋しさを感じた。
空を見上げている時の彼は、僕のことを見てくれない。
何処か遠くに居る人を見ているような気がする。


「オイ、塔矢?どうしたんだよ?」


考え込んでいたら、いつの間にか進藤が僕の顔を覗き込んでいた。


「・・・いや、何でもない。行こうか。」


「おう!」


今日は久しぶりに二人きりになれる日。
普段、休日に進藤と会う時は碁会所だから、碁から離れ、二人きりになるというのは、かなり新鮮だ。進藤もそう感じているようで、碁会所に行きたいなどとは言わなかった。


「水族館なんて、何年ぶりだろうなぁ〜。」


隣を歩く進藤がとても楽しそうで、僕は安堵した。


「僕も幼い頃に行ったきりだな。」


「へぇ、そうなのか。俺はいつだったかな・・・・」


他愛ない会話をしながら、駅の改札をくぐり、ホームに向かう。
ホームに入るとすぐ、目的の電車が着いた。
僕と進藤は空いてる座席を探し、隣り合わせで座った。


「向こうに着いたら、先に昼食にしようか。丁度良い時間になるだろうから。」


「あぁ、そうだな。塔矢は何食いたい?俺、ラーメンが良い。」


「僕は何でも構わないから、進藤の好きなものにしよう。」


「ホントか?」


「うん。」


進藤の喜ぶ顔が見たいから、僕が彼に合わせる。
それは付き合いはじめてから変わらない。
碁のことだけは別だけれど。



目的の駅に着き、昼食をとった。
ご要望のラーメンを食べ、ご機嫌の進藤をつれて、水族館へ向かった。
館内へ入った僕たちはパンフレットに書かれた案内図を頼りに歩いた。


「あ、もうすぐイルカショーが始まるよ。どうする、進藤?」


イルカショーの開始時間が近いことを腕時計で確かめ、進藤に声をかけた。


「え?何?・・・イルカ?行く行く!」


僕の声が届かないくらい、進藤は水槽の中の世界に見入っていたようだった。


「じゃあ、行こうか。あっちから行くみたいだね。」


イルカショーを見に行く、他のお客さんの後について、僕たちは歩いた。



イルカショーが終わった後も水族館内を見て回った。
色とりどりの熱帯魚など、たくさんの魚を見た。
進藤はどの水槽の前でも楽しそうで、笑顔を絶やさなかった。
だから僕は、水族館に来て正解だったなと心から思った。


明日になれば、また碁を打つばかりの生活になる。
息抜きが必要だと思ったから、僕は碁から離れた過ごし方をしたいと進藤に言ったのだ。
以前、理由は判らないが、進藤が『碁は打たない』と言った。
あの時のショックは今でも忘れない。


同じ世界で戦い合えるライバルであり、同じ道を歩く恋人だから、互いの背中を押し合い、互いに刺激し合って前に進んでいく。
今、僕は君が追い付いてくるのを待っている。
君がもし、また立ち止まるような時があったなら、僕も立ち止まって、同じ空を見上げよう。
そしてまた、スタートラインは違えども、一緒に歩き出そう・・・・



*おわり*


+あとがき+

アキラの口調がよくわからないまま書いたため、似非アキラになってしまいました。