――――ある日の朝、下駄箱の中に一通の手紙が入っていた。






一通の手紙






真っ白な封筒の表には綺麗に整った字で“柳沢慎也様”と書かれている。
裏を向けてみても、差出人は書かれていなかった。


「・・・・・・誰だーね?」


受取人である柳沢は不審に思いながらも、その封筒を鞄にしまった。
その字に見覚えがあったからだ。




教室に入り、自分の席に向かう。
いつもと変わらないはずの教室にどこか違和感があった。


「・・・・・・・?」


気のせいだと柳沢は自分に言い聞かせて、椅子に座る。
先程の手紙を鞄から出し、封を切る。それとほぼ同時にチャイムがなった。
そのすぐ後に担任教師が教室に入ってきた。


「起立。」


騒がしかった教室もすぐに静まり、日直の号令の声がした。


「礼、着席。」


椅子に座った柳沢は、HRが始まっても気にすることなく、封筒の中身を取り出し、読む。


「やっぱり、からだーね・・・」


柳沢は最初の一文字目を見たときに確信した。
差出人は親友のだという事を。



『 慎也へ。

  いきなりこんな手紙を書いてゴメンな。

  どうしても、お前に言っておきたい事があったんだ。

  本当は、ずっと言うつもりなんて無かったんだけど、言う事にした。

  言わないで後悔するより、言って後悔する方が良いと思ったから。

  実は、今まで隠してたんだけど、俺、お前の事、好きだったんだよ。

  知らなかっただろ?俺だって正直ビックリしたよ。

  まさか、親友のお前に対して恋愛感情を持ってたなんてさ。

  それに気付いた時には笑っちまったよ。

  あ、返事はいらないからな。お前に答えを求めるつもりは無いんだ。

  俺、今日、父さんの仕事の都合で転校するからさ。

  お前の「だーね」って口癖が聞けなくなるのは淋しいけど、もう会うことは無いと思うぜ。

  父さんの転勤先、海外なんだ。ロンドンだってさ。住所とか何も教えないで行くよ。

  期待したくないから。待つのは嫌だから。もう何もいらねぇから。

  慎也と知り合って、仲良くなれたっていうことだけで十分過ぎるくらいだ。

  楽しかった思い出だけ持っていくからな。

  だから、さよならだ。今までありがとう。スッゲェ楽しかったよ。元気でな。

                                                』



がお父さんの仕事の都合で転校する事になった。」


手紙と担任教師の言葉が重なる。
言葉の重みが二倍になって、柳沢に圧し掛かった。



――――“好き”って・・・恋愛感情?が俺に?



「信じられないだーね・・・・・」


クラスメートが騒然とする中、柳沢は呆然と呟いた。


「・・・出発は今日の午前11時の飛行機だそうだ。何の挨拶もなしに行くのを申し訳なさそうにしていたが、皆によろしくと伝言を預かった。」



――――9時前・・・。まだ間に合うか・・・?



柳沢は教室の時計を見上げて、時間を確かめると手紙を握ったまま教室を飛び出した。
担任教師の引き止める声がするが、そんなものはお構いなしに、一目散に走った。




駅のホームに出ると、空港方面の電車に飛び乗った。



――――アイツに、言わなきゃ・・・。



気持ちばかりが先走ってしまう。
柳沢はしきりに携帯を出してメールのチェックをする・・・そして、イライラと唇を噛み締める。
先程から何度もメールを送っているのに、反応が無い。


「間に合ってくれだーね・・・」


メールが来ないなら、もう後は祈るしかないと判断した柳沢は、ゆっくりと深呼吸した。


・・・・・・・」


柳沢は窓の外を見つめた。





* * * * * * * * * *





柳沢は空港に着くとすぐにロンドン行きの便を探した。


形振り構わず走って、漸くロンドン行きの便への搭乗口を見つけた。


!!!!!」


搭乗口の前で携帯を見つめながら立っているの名前を呼んだ。


「・・・・・・・・・・っ」


は幽霊でも見たかのような表情で柳沢を見た。


「やっと、見つけただーね・・・」


柳沢は息を整えながら、に近づいた。


「ホントに来たのかよ?バカだなぁ・・・・・・」


は泣き笑いのような顔になって、柳沢を小突く。


「・・・・・って、バカは俺か。お前のメールを信じてこんなところで待ってるんだもんな・・・。おかげで予定の飛行機に乗れなかったじゃねーか。」


は自嘲気味に言った。


「・・・・・は卑怯だーね。一方的に言うだけ言って、逃げるなんて卑怯すぎるだーね。」


柳沢は握り締めすぎてヨレヨレになってしまった手紙を突き出して言った。


「え?」


は柳沢の言っている意味が飲み込めずに、マジマジと柳沢を見つめた。


「俺もずっとの事好きだっただーね。だから、すごく嬉しかっただーね。」


柳沢はしっかりとを見て言った。


「・・・う・・・・・・・そだろ・・・・?」


「嘘なんかでこんなこと言わないだーね!!」


「マジかよ・・・・・信じらんねぇ・・・・・」


は思わず、自分の頬を抓った。


?何やってるだーね?」


現実である事を認識したは逃げ出したい衝動に駆られる。


「・・・・・俺、ヤバイくらいに嬉しい・・・・・」


「俺も嬉しいだーね。・・・・・・もっと早くに知りたかっただーね。」


「ははは。俺も。もっと早く言えばよかった。」


柳沢とは2人で笑い合った。




「・・・・・俺さ、高校は日本に帰ってくるよ。だから、待っててくれるか?」


気が済むまで笑って、は言った。


「もちろんだーね。」


柳沢が頷く。


「・・・・慎也、これお前にやるよ。」


は柳沢に小さく畳んだ紙を渡した。


「これは何だーね?」


柳沢は受け取って、開いた。


「向こうでの住所と電話番号。もし、お前がここに来たらあげようと思って用意してたんだ。」


「絶対電話するだーね。手紙も書くだーね!!」


「うん。俺も電話するし、手紙も書く。・・・半年は長いかもしんねぇけど、必ず帰ってくるから、待ってろよ?」


「大丈夫だーね。ちゃんと待ってるだーね。」


柳沢の言葉には頷いて、搭乗口に向かった。


「じゃあ、行ってくる。向こうに着いたら電話するからな!!」


「待ってるだーね。約束だーね。」


柳沢は大きくてを振って、を見送った。





――――半年後が楽しみだーね。





*おわり*



++あとがき++


700代理のサガ様のリクエストで柳沢夢です。
主人公のキャラが掴めてない・・・。
柳沢も難しい・・・。