微笑み





『いつもごめんな・・・・』



そう言って、いつも悲しそうな顔をする。
別に、迷惑だとか面倒だとか思ったことは一度も無い。
今後も思うつもりは無い。だから、に謝られる筋合いは無いのだ。




「せんせぇ〜!!!くん、具合悪そうです!!」


平凡な数学の授業中、教室の片隅からそんな声が聞こえた。


「そうか。じゃあ、日吉。保健室に連れて行ってやりなさい。」


こういう時、必ず俺に命じられる。
何故かというと、を強制的に保健室へ連れて行けるのは俺しか居ないからだ。
他の奴の場合、大抵、の小柄で可愛らしい容姿に惑わされて、無理強いが出来なくなるのだ。
それはこの約1年の間で立証済みだ。


「はい。」


俺は席を立ち、の席に向かう。
机に臥せっているの顔を上げさせると、顔色が真っ青だった。


、立てるか?保健室行くぞ。」


「行かない・・・授業受ける・・・」


「ワガママ言うな。行くぞ。」


「ヤダ・・・・・若のばか・・・」


覇気の無い声で、悪態を吐く。


「馬鹿で結構。」


俺はの体を持ち上げた。
そのまま抱えて、教室の出入り口に向かう。


「やーだー。行かないって言ってんだろ!!!」


は俺に抱えられたまま暴れだす。
クラスメートや教師がハラハラと見守る中、俺は無言で教室を出た。




保健室に着くと、いつものように保健医が苦笑しながら、と俺を見比べた。


くん、日吉くん、いらっしゃい。くん、顔色が悪いわね。朝ご飯食べたの?昨日は良く眠れた?」


俺とは保健室の常連になっているため、顔と名前を覚えられている。
そして、を保健室に連れて行くと、必ず保健医とお茶会になる。
まぁ、の様子も見れるし、一石二鳥だろう。
そして、このことは全教員に黙認されているのだ。


くんは、ベッドで寝てなさいね。あ、熱計ろうか。」


俺がをベッドに寝かせる間に、保健医は体温計を出していた。


「はい、くん。脇に挟んでね。」


は、嫌々体温計を受け取り、熱を計り始めた。


「日吉くんはこっちに座ってちょうだい。」


保健医に椅子に座るよう促され、俺はベッドの様子が見える位置に椅子を動かし座った。


「はい、日吉くん、どうぞ。」


「ありがとうございます。」


保健医からお茶を受け取ると、ピピッという小さな電子音が聞こえた。
体温測定が終了した合図だ。


「あ、計り終わった?どれどれ?」


保健医はから体温計を受け取った。


「あら、微熱があるわ。くん寒くない?」


「大丈夫。だから、教室戻る。」


保健医の問いかけに答え、はベッドから出ようとした。


「ダメに決まってるだろう。もうすぐ授業も終わるから、大人しく寝てろ。」


俺は保健医にもらったお茶を一口飲み、に渡した。


「むぅ・・・」


「授業が終わったら、一緒に帰るから。今はそれを飲んで寝ていろ。」


この時間は6限目だ。授業が終わればHRがあるが、この際出なくてもいいだろう。
一旦、荷物を取りに教室に戻らないといけないが。


「日吉くんの言う通りよ。大人しく寝ていなさいね。じゃあ、私は、担任の先生にこのことを伝えに職員室に行くから、チャイムが鳴ったら帰っていいわよ。」


「わかりました。ありがとうございました。」


保健医が保健室を出て行き、俺との2人になった。


「若・・・。」


が弱々しい声で、俺を呼ぶ。


「何だ?」


「今日、部活あるんだろ?良いのか?帰って・・・」


「大丈夫だ。樺地に伝えておけば問題は無い。」


「そっか・・・・ごめんな?」


「お前に謝られる筋合いは無い。こんなことは気にしなくていいんだ。」


「ありがと・・・」


は泣きそうな顔をした。


「そんな顔をするな。お前はずっと笑っていろ。」


今まで何度も言ってきた言葉を告げる。


「うん・・・わかった・・・」


は力なく笑った。
たったそれだけでも、俺は嬉しいと思う。
だから、元気になったら、もっと明るく笑って欲しいと俺は思うんだ。




これからもずっと俺のために笑っていてくれ。




*おわり*




+あとがき+


何故か日吉と保健医の話になってしまってる気が・・・。

ていうか、お題に合ってるのかな・・・?