全てを捨てる覚悟
跡部と付き合うようになって、今まで知らなかった跡部をたくさん知った。
知りたくなかったこともたくさん知った。
跡部は、俺のことを何だと思ってるんだろう・・・
訊いてみたいと思っても、訊けない。
跡部に、おまえは遊びだ、って言われるのが怖いから。
「、大丈夫か?」
教室でボーッとしてしまっていたらしく、岳人に心配された。
「ん。大丈夫。」
僕は笑って答えた。
「そっか。具合悪いとかだったらすぐ言えよ?」
「うん。ありがと。」
僕が頷くのを見て、岳人は安心したようだった。
岳人には、色々なことを相談している。
特に、跡部とのことは全て話した。
僕と跡部が付き合ってることは、岳人と忍足しか知らない。
だけど、跡部のあのことは全校生徒が知っている。
あのことと言うのは・・・跡部が高等部の3年生の女の先輩と付き合ってるということ
だ。
跡部は一度としてそのことを否定しなかったのだ。
僕と付き合っていることは隠して
いるのに。
しかも、その先輩と付き合う前から、僕と跡部は付き合っている。
その所為もあって、僕は跡部に対する不信感を抱くようになった。
「別れたくないよ・・・・」
僕は机に伏せて、小さく呟いた。
* * * * * * * * * *
「跡部、ちょっと良い?」
放課後、校門で待ち合わせた例の先輩と帰ろうとしている跡部をつかまえた。
「何だ?」
邪魔するな、と目だけで言われたような気がして、僕は一瞬怯んだ。
「・・・その女と僕と、どっちが大事なの?」
周りの視線が一斉に僕に向けられたのを感じた。
跡部も驚いた顔で僕を見ていた。
その隣
の女も目を見開いて僕を見ている。
名誉とかプライドなんていらない。
僕は跡部が居ればそれで良い。だから、たとえ世間から白い目で見られても、後ろ指をさされようとも、何もかもを捨てて生きていく覚悟はできている。
跡部は違うのかな・・・
同性と付き合うっていうことはそういうことなんじゃないかと僕は思う。
「フッ・・・ハハハハハハッ」
「け・・・景吾?どうしたのよ?」
いきなり笑いだした跡部にビックリした女は、慌てた様子で跡部の腕を掴んだ。
「離せよ。テメェにはもう用はねぇよ。」
一瞬で顔が変わった跡部を見て、その女は狼狽えた。
スルッと跡部の腕から手が離れる。
「、こっちに来い。」
僕は跡部に抱き寄せられた。
「そ・・・その子のドコが良いのよ・・・・男じゃない!!」
跡部にフられた女はヒステリックに叫んだ。
今まで周りで見ていた人たちが、ヒソヒソと耳打ちし合う。
「だからどうした?」
跡部はひどく冷めた目で女を見た。
「な・・・・」
気がついたら、僕は跡部にキスされていた。
「俺は最初からしか見てねぇよ。」
「え・・・じゃあ、何で・・・・?」
僕はポカンとして跡部を見た。
「この女が、付き合わねぇとお前とのことをバラすとか言いやがるからだ。俺は別にバレ
ても良いと思ってたけどな、お前が周りから侮辱されたり晒し者にされるの
は許せないんだよ。」
跡部は苦虫を潰したような顔で僕を見て言った。
「何で言ってくれないのさ!!僕、別にバラされても良かったのに・・・一人で抱え込ま
ないでよ・・・」
「悪かったな・・・色々悩ませて。」
そう言って、再び女に目を向ける。
「つーことだから、バラすなり何なりしろよ。とは言え、もう知らねぇ奴は居ねぇだろう
けどよ。」
跡部の勝ち誇ったような顔を見て、やっぱり跡部はカッコいいと思った。
それを、岳人に言ったら、“恋は盲目”ってやつだと言われた。
けど、
幸せならそれでいいんじゃないかとも言ってくれた。
だから、僕も、そうだねと言っておいた。
*おわり*
+あとがき+
偽跡部様・・・