不可視
目に見えないものを信じることは難しい。
だからこそ、形にして表そうとするのだろう。
恋人達は・・・
「・・・・・乾先輩。今日の帰りなんスけど・・・」
放課後の練習が始まる前に、海堂に呼び止められた。
話の内容は、今日の帰りに、寄りたい所があるということだった。
特に用があるわけでもないから、二つ返事で了解した。
海堂と恋人として付き合うようになったのは、ごく最近のことだ。
トレーニングなどのメニューを作ったり、自主トレのサポートをするようになったのはもっと前からだった。
部活後、いつものように海堂の自主トレに付き合い、帰路につく。
寄りたい所があると言うから、自主トレも途中で切り上げるのかと思っていたら、いつもの量をこなしていた。
「海堂、寄りたい所って言うのは一体何処なんだい?」
俺たちが今歩いている道は、何処をどう見ても、いつもと同じ帰り道でしかない。
「・・・・・もうすぐッス。」
このまま歩いていくと、海堂の家に着く。
まさか、海堂の家に行くわけではあるまい。
じゃなければ、“寄りたい所”などという表現は使わない。
「そうか。」
もう、この角を曲がれば海堂の家が見える、という所まで来ている。
「こっちッスよ、乾先輩。」
その角を海堂の家とは反対の方向に曲がり、すぐそこにある公園へ入った。
「・・・・・・海堂、ベンチに座らないか?」
公園に入った所で立ち止まる海堂にすぐ横にあるベンチを示した。
二人で並んで座って、暗くなって誰も居ない公園を見る。
何故、家に帰らずに公園に来たのか、データをいくら巡らせてみてもまったく見当もつかない。
別れ話なのだろうかとさえも思ってしまう。
「・・・・・・・・・・・乾先輩。これ、どうぞ・・・」
沈黙を破るように、海堂が声を発した。
海堂が俺に差し出す手に持っているのは、紙袋。
「何だ?」
俺は海堂からその紙袋を受け取った。
「・・・・・・誕生日、おめでとう、ございます。」
誕生日・・・?
そう言われてみれば、今日は6月3日だった。
「ありがとう、海堂。今日が誕生日だということをすっかり忘れていたよ。」
「やっぱりな・・・先輩は、他の人のデータはよく知ってるが、自分のことは全然だからな・・・」
海堂が呆れたように言った。
「そうかもしれないな・・・。いや〜、海堂が俺のことをよく知っていてくれて嬉しいよ。差し詰めこれは海堂の俺への愛の証かな。」
「な・・・・・っ!!!べ、別にそういうつもりじゃないッスよ!!!!」
海堂は顔を真っ赤にしてそう言った。
「照れなくても良いぞ。本当にありがとう。」
俺は海堂の手を握り、引き寄せた。
「何すっ・・・・」
「好きだよ、海堂。」
海堂の耳元でそう囁いた。
「っ・・・・・・・家に寄って行きますか?」
一層真っ赤になって俯く海堂がボソリとそう言った。
*おわり*
+あとがき+
☆不可視=肉眼で見えないこと。
実はこの話、昔書いて途中で挫折した乾海を元にしています。
大分変わってると思いますが・・・。