差し伸べられた手
俺の人生は、あることがきっかけで、大きく変わった。
あの場所でアイツと会った、その瞬間から、俺の人生が変わったのだ・・・
「・・・・・・今晩、泊めて。」
土砂降りの雨の中、柳家の前に立つ少年が一人。傘も差さず、ずぶ濡れのまま立っていた。
「・・・。早く上がれ。」
その少年を見て、驚くこともなく、家に入るよう促すのは、柳蓮二。
「ありがとう。」
柳にと呼ばれた少年は、素直に頷き、中に入った。
「これで体を拭いてからにしろ。」
そう言って、柳はバスタオルをの体にかけた。
「わかった。」
「俺は風呂の準備をしてくるから、その滴る水滴が無くなったら風呂場に来い。」
「うん。」
の返事を聞き、柳はそのまま風呂場へと向かった。
* * * * * * * * * *
俺はが風呂に入ってる間に、いつからこういうことをするようになったのか考えていた。
二人が初めて会ったのは、約1年前。
その日も今日のように土砂降りの雨が降っていた。
学校帰りに、道端に座り込んでいたを見つけ、そのまま家に連れて帰った。
今思えば、何故見ず知らずの人間を家に連れて帰ったのか、不思議でしょうがない。
「アンタ、物好きだね。」
家で風呂に入れた後、名前を聞いた俺に、そう言った。
ずぶ濡れの姿だったのに躊躇い無く連れて帰ったことを言っているのだろう。
「そうだな。で、名前は?」
と、俺が言うと、
「名前は、。・・・・何であんな所に居たのかって聞かないの?」
小さく自分の名前を呟き、不思議そうには聞いてきた。
「話したいなら話せば良い。」
はしばらく逡巡した後、ポツポツと自分のことを話し出した。
あの時が話してくれたことは、両親が不仲で離婚寸前なのに離婚せず、毎夜毎夜夫婦
喧嘩を繰り返していること。
たまに母親の怒りの矛先がに向くことがあるということ。
は一人っ子で、苦しみを分かち会える兄弟が居ないため、家から逃げ出すことしかできないということ。
仲の良い友人も居らず、知っている親戚も居ないから、行く場所が無く、雨が降っていよ
うと、雪が降っていようと、台風が来ていようとも外に居るしかないのだそうだ。
それを聞いた俺は、外に居るくらいなら俺の家に来ればいいと言ったのだ。
* * * * * * * * * *
風呂からあがると、蓮二がホットココアを用意していてくれた。
「あがったのか。そこに座れ。」
「うん。」
蓮二に示された椅子に座ると、ホットココアをくれた。
「今日はどうしたんだ?」
ココアを飲んで少し落ち着いた俺に、蓮二が聞いてきた。
「いつもどおり、夫婦喧嘩。最近、父さん帰ってこなかったから平和だったんだけどさ、今日、たまたま父さんが帰ってきてさ、母さんと鉢合わせ。もう、顔見るなり、罵り合い始めちゃって。」
暗くならないように明るく言ったら、蓮二に小突かれた。
「そういう時は笑うなと言ったはずだ。」
境遇はまったく違うのに、蓮二は俺のことをしっかりわかってくれている。
欲しい言葉を欲しいときに言ってくれるんだ。
「うん・・・・」
俺がうつむくと、蓮二に引き寄せられた。
泣きたいときに泣いて良いんだってことを教えてくれたのは蓮二だった。
1年前、蓮二が俺を助けてくれた。
だから、
今度は俺が蓮二を助けられたら良いと思う・・・
これからもずっと一緒に居たいから。
*おわり*
+あとがき+
初柳。書きにくいですね。