燈台下暗し
「!!!!!!!!どこ行きやがった!?隠れてねぇで出て来い!!!」
広い跡部邸に怒鳴り声が響き渡る。
「・・・・・・・・ったく・・・。オイ、を見かけたら、とっ捕まえておけ。」
跡部家の長男、景吾は使用人の一人に声をかけた。
「はい、かしこまりました。」
景吾はその返事を聞くか聞かないかのうちに自室へと戻った。
「・・・・・・・・・・・・・・・もう行った?」
使用人が居た所のすぐそばにあるドアから顔を覗かせる少年は、辺りを見渡しながら出てきた。
「えぇ。お部屋に戻られましたよ。坊ちゃま。」
「良かった〜。」
と呼ばれた少年は跡部家の次男だ。
年は12歳になったばかり。
「今日は何をなさったのですか?」
「んーとね、今日は兄ちゃんの制服を女子用に替えて、兄ちゃんの制服を全部クリーニングに出してきた。」
「そうでしたか。」
の景吾に対する悪戯は日常茶飯事で、それがあってから1日が始まると言っても過言ではないほどだ。
「!!!!やっぱり其処に居たのか!!!!」
廊下の端から、怒鳴り声が聞こえた。
「あ。しまった・・・バレた。」
は使用人の後ろに隠れた。
「隠れても無駄だぞ。」
景吾はの襟足を掴むと、使用人の後ろから引きずり出した。
「放せよバカ!!!」
はジタバタと暴れる。
「バカはお前だ。俺の制服を返せ。」
「クリーニングに出したもん。」
「出したもん、じゃねぇ!!!・・・・・どうすんだ?今日は学校行けねぇじゃねぇか。」
怒鳴られて、身を竦めたを見て、景吾は一息つくと、静かに言った。
「・・・・・・・・知らない。」
そっぽを向いて、は言った。
「あのな・・・・俺は今日、学校に行かなきゃならねぇんだ。わかるだろ?」
「・・・・・・・・・わかんない。いっつも学校学校って・・・帰ってくるのも遅いしさ・・・。」
「・・・・・。」
「学校の何が楽しいんだよ。」
は不登校児で、小学校1年生からずっと休みがちで、ついには行かなくなってしまったのだ。
理由ははっきりしておらず、は、ただ行きたくないとの一点張りだった。
「イロイロ、だな。授業はともかく、部活は楽しいんじゃないか?」
「・・・・・・・つまんないよ、授業も部活も何もかも。・・・・・・・兄ちゃん居ないもん。」
「そうかよ。・・・・・・・・仕方ねぇ。今日は休んでやるよ。」
景吾はぱっと手を離し、携帯でどこかに電話をした。
電話を終えた景吾は、廊下に座り込んでいるを見下ろす。
「何したいんだ?」
景吾はポンポンとの頭をたたく。
「・・・学校行けば。パパの部屋に制服あるよ。」
俯いたままが言う。
クリーニングに出したというのは嘘だと言った。
「バーカ。今日はもう休むって決めたんだ。遊んでやるよ。」
「・・・・・・・・いらない。」
「そうかよ。」
景吾の呆れたような声にはバッと顔を上げた。
「ごめんなさぃ・・・・ウソだよ・・・兄ちゃん・・・」
泣きそうな顔で謝る。
「俺のほうこそ悪かったな。ひとりぼっちにさせて。」
景吾は屈んで、と目線を合わせた。
「兄ちゃん、遊んで?テニスしよ?」
「あぁ。良いぜ。」
ぎゅうっと抱きついてくるを景吾は抱き上げて、着替えるために部屋に戻っていった。
何よりも大事なものは自分のすぐそばにあったことに気づいた・・・
*おわり*
+あとがき+
弟には甘いお兄ちゃん。ってのが書きたかったんです。
兄弟そろってブラコン。
お題に沿ってなくてすいません・・・