雨の情景
『なんでっ!?どうして・・・・・・別れるなんて言うんだよっ!!!!!!』
真っ暗な空から降りそそぐ雨の中、泣きわめく声が聞こえた・・・・・・・・
6月に入り、雨の季節がやってきた。
忍足侑士は毎日降る雨に嫌気を指しながらも、窓の外の雨を見ていた。
「・・・侑士。侑士?オイ、忍足侑士!!!」
バンッと机を叩くのは。
忍足が所属しているテニス部のレギュラー専属の敏腕マネージャーだ。
「ん?何や、。」
忍足は飄々とした様子でを見た。
「何や、じゃないだろ。何回呼んだと思ってんだよ?一回呼んだときに返事しろよ。」
「そらすまんかったなぁ。」
目くじらを立てるに対して、忍足はのほほんとした様子だ。
「悪いと思ってんなら、跡部のとこ行ってこい。俺はもう言う気が失せた。」
「跡部?何か伝言でもあるんか?教えてや。」
忍足はの機嫌を取るかのように言った。
「知らねぇよ。自分で聞きに行け。俺は今から宍戸のところに行く。」
「ほな、俺も一緒に行くわ。」
「はぁ!?来なくて良いよ。」
「えぇやん。同じ方向やし。宍戸のクラスは跡部のクラスの隣なんやから。な?」
忍足の言葉を聞き、はあることに気が付いて赤面する。
そう、は跡部からの伝達事項を隣のクラスの宍戸よりも先に忍足に伝えに来たのだった。
「おおきにな。。」
内容は聞けなかったけれど、その事実が嬉しくて、忍足は礼を言う。
「何のことだかさっぱりわかんねぇよ。バッカじゃねぇの?」
は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「うわぁ〜。関西人にバカはキッツイわ〜。」
茶化す忍足を無視して、は教室を出た。
「あ、待ってや、〜。・・・ま、えぇか。」
忍足は、出て行ったを見て、大分元気になったと思った。
1年前、精神的に限界まで追い詰められたをずっと支えてきた忍足は今の元気なを微笑ましく思っている。
跡部に言わせると、親バカ、だそうだ。
* * * * * * * * * *
1年前の雨の日の夜。
の恋人が亡くなった。
正確には恋人“だった”人だ。
その時のことを忍足は今でも忘れない。
交通事故だった。
スピード違反の乗用車に撥ねられたのだ。
その日は、の誕生日だった。
そして、とその恋人が付き合って1年の記念日でもあった。
の恋人は同性で、年上の社会人だった。
の兄の同僚だということもあり、頻繁にの家を訪れていたことが知り合うきっかけだった。
『兄ちゃんの友達にさ、すっげぇカッコイイ人居るんだぜ!!』
まだ、がその人と付き合う前、がそう言うのを忍足は絶えず耳にしていた。
付き合い始めた頃も、毎日ノロケを聞いていた。
がその人をどれだけ想っているかということや、その人がのことをどれだけ大切にしているのかが窺えた。
あの日も、は1日中浮かれていた。
会えるのがすごく楽しみだと言っていた。
その日の夜、忍足はコンビニへ行くため、雨の中出かけた。
近所の公園を抜け道にしようと思い、足を向けたその瞬間、聞きなれたわめき声が聞こえた。
『なんでっ!?どうして・・・・・・別れるなんて言うんだよっ!!!!!!』
忍足は驚いて、思わず茂みに身を隠した。
公園の中を覗き込むと、傘も差さず、雨に濡れるのも構わず男に詰め寄っているだった。
それを見て、忍足は相手がの恋人だと察した。
『仕方ないだろ。俺にも都合があるんだ。』
その男は自分の持っている傘をに差し出した。
『どんな都合だよっ!!!!!言ってくれなきゃわかんねぇよ!!!』
はその傘を振り払う。
『悪いな、それは言えねぇ。・・・・・お前には俺よりも相応しい奴がきっと居る。じゃあな。』
男はが振り払った傘を広い、忍足の居る入り口に向かって歩き始めた。
忍足は慌てて傘で顔を隠した。
男が横を通り抜ける瞬間に、忍足はそっとその男の顔を窺った。
男の表情を見た忍足は息を詰まらせた。
泣きそうな、苦しそうな表情をしていたのだ。
忍足は思わず公園の中のを見遣った。
がその男を追いかけて来たその瞬間、忍足のすぐ後ろで大きな衝突音が聞こえた。
忍足ももほぼ同時にその音がした方向を見た。
白いビニール傘が宙を舞っていた。
の恋人が持っていた傘だった。
『っ・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!』
が半狂乱になって叫んだ。
その後、近所の人の通報で来た警察に事情聴取をされていたときも、親が迎えに来たときも、は放心状態で、恋人の傘を抱きしめていた。誰が何を言ってもその傘を放すことなく、終いには持って帰らせざるを得なかった。
後に聞いた話では、あの男がと別れると言ったのは、の母親に付き合っていることがバレ、別れてくれと懇願されたことが原因だった。彼が亡くなって以来、日に日にの精神が崩壊していく様を見た母親が白状したと、の兄が言っていた。
忍足はあの日以来毎日に会いに行っていた。少しずつ話をして、が気を取り直すように努力した。
1ヶ月、2ヶ月と時が経つにつれ、も徐々に元気を取り戻してきて、学校に通えるようになった。
それでも、雨が降るとその日のことを思い出して取り乱してしまうこともあり、毎日通うことは難しかった。
春になり、3年生に進級し、漸くも雨の日でも学校に通えるところまで復活した。
* * * * * * * * * *
雨が降ると、思い出すのは、あの日のこと。
それは忍足も同じで、が元気ならそれで良いと思っていても、どこかでが泣いているのではないかと心配している。
「侑士!!!何ボケッとしてんだよ!!置いてくぞ!!!」
教室の入り口からから呼ばれ、忍足は我に返った。
「今行くからちょお待っとってや〜。」
雨の日の思い出はきっと一生忘れない。
*おわり*
+あとがき+
何だろ、この話・・・
苗字の変換意味無し。
一応、忍足の親友です。