自分だけの宝物




夏も近づき、徐々に暑くなってきた。
どんなに暑くても、部活は毎日あるわけで、日曜日も練習はある。


「あっちぃな〜・・・・・・顔洗ってこようぜ、越前。」


「良いッスよ。」


休憩時間になり、桃城は越前を水飲み場に誘った。
その誘いを受け入れた越前は、飲んでいたドリンクを置いた。


「ぷはぁ〜。冷てぇ〜!!」


頭から水を浴びるかのように、バシャバシャと顔を洗う桃城の隣で、越前も顔を洗った。


「・・・・桃先輩、水跳ねてるッスよ。」


洗った顔を拭きながら、越前は言った。


「そうか?ワリィな。」


桃城は水道の蛇口を締めた。


「そっちじゃないんスけど・・・」


越前がボソッと言った。
桃城には聞こえていなかったらしく、上機嫌で鼻歌を歌っていた。


「ん?アレ何だ?」


桃城は近くの木の下で光っているものに気づいた。


「どうしたんスか?桃先輩。」


越前は桃城が向かう先を気にしながら、問い掛けた。


「イヤ・・・・っと、あった。」


桃城は屈んで、草の合間から拾い上げた物をまじまじと見た。


「ビー玉じゃねぇか。何でこんなとこに落ちてんだ?」


先ほど桃城が見た光っているものの正体はビー玉だった。


「図工か何かで使ったんじゃないんスか?」


越前は桃城の横からビー玉を覗き込んだ。


「かもしれねぇな・・・」


桃城はそのまま木に凭れ掛かるようにして座り込んだ。
越前もその隣に腰を下ろした。


「昔さ、こういうの集めたりしなかったか?」


桃城は懐かしむように言った。


「俺はしたことないッスよ。桃先輩はあるんスか?」


「俺?あるぜ〜。ビー玉の他にも小石とか、海行った時なんか貝殻拾ってきたりとかな〜。」


桃城は嬉しそうに語り始めた。


「空き箱とか使って、ビー玉とかを入れとくんだよ。そうするとさ、母さんに、『こんなもの捨てなさい!!』とか言われてよ、何度捨てられそうになったか・・・」


「ふ〜ん。」


越前は桃城のワクワクした顔を見て、カッコイイと思った。
そう自覚して、越前は恥ずかしさで顔を俯けた。


「そういやー、俺が集めたやつがまだ残ってるぜ。今日の帰りにでも見に来るか?」


「え?良いんスか?」


「おう。お前が見たいんならだけどな。」


「見たいッス。」


桃城の笑顔に越前は頷いた。


「よーし、そんじゃあ、今日の帰りは俺ん家な。っと、そろそろ戻らねぇとな。」


「そうッスね。」


桃城が立ち上がり、越前もそれに続いて立ち上がる。
2人並んでテニスコートに戻った。







* * * * * * * * * *







「その辺テキトーに除けて座ってろ。」


練習が終わり、桃城の家に直行した。


「わかったッス。」


越前は相変わらずの散らかりように半ば呆れながらも、言われたとおりに物を退かして座った。
そして、帰り道の途中で桃城に買ってもらった缶ジュースを開け、飲み始めた。


「確かこの辺に・・・・・あ。あった。ほら、越前。コレ見ろよ。」


桃城は机の引き出しを探り、目当てのものを出して越前に差し出した。


「へぇ〜。すごいッスね。いっぱいある・・・」


桃城の手の中にある箱を覗き込み、越前は感心した。
箱の中にはビー玉の他に小石やら貝殻やらがたくさん入っており、角の丸くなったガラスの破片も入っていた。


「あ、これキレイ・・・」


越前はスカイブルーの500円玉くらいの大きさのガラスの破片を指差した。


「コレか?ちょっと待ってろよ。」


桃城は越前が示したガラスの破片を箱の中から取り出した。


「ほれ。一応角は取ったはずだけど、気ぃつけろよ。」


桃城は忠告しながら越前に手渡した。


「少しカーブしてるんスね。」


「あぁ、多分ガラス瓶の破片なんだろうな。欲しいんなら、やるぜ。」


「え、良いんスか?」


「良いぜ。元々欲しがるならお前にやるつもりでいたしな。」


「え?」


「いつか見せてやろうと思ってたんだよ。お前はこういうの集めたことねぇかもしんねぇって思ったからな。」


「ふぅん・・・・・」


越前は手のひらのガラスの破片を見つめた。



この破片や箱の中のビー玉たちには桃先輩の夢や思い出がたくさん詰まってるのかな。



越前はそう思い、尚更自分が貰って良いものではない気がした。
だけど、自分のためにガラスの破片の角を丸くしてくれたのだと思うと、返すのは悪い気がした。


「変に遠慮すんなよ?」


桃城は越前の考えていることに的確に答えを出した。


「・・・・じゃあ、貰うッス。」


越前は破片を軽く握った。


「おー、貰ってけ。他にも好きなの持ってけよ。思い出のお裾分けだ。」


桃城の言葉を聞いて、越前は嬉しいと思った。
自分の知らない頃の桃城を少し知れたような気がしたのだ。




*おわり*





+あとがき+



ビー玉集めとか貝殻集めとかしたことないですか?
私は昔よく集めてました。

半端な終わり方ですいません。。。