らしさ
「アキラ!!おはよー!!」
朝練を終えて教室に向かう途中、声をかけられた。
「。おはよ。今日は遅いんだな。」
歩くペースを落として、の隣に並んだ。
「うん。寝坊した。アキラは朝練だったんだろ?オツカレサマ。」
「遅くまで起きてるから起きれねぇんだろ。」
「そうですよーだ。あ、そういえば、深司は?」
は俺の隣を覗き込んで言った。
「深司は先に教室行ったぜ。」
「ふぅん。置いてけぼり食らったんだ〜?バッカだなぁ〜。」
「ウルセー!!」
軽口を叩き合いながら、教室に向かった。
昼休み、ふと気が付いたら、の姿はなかった。
「なぁ、深司。どこ行ったか知らねぇ?」
俺はの後ろの席の深司に聞いてみた。
「さあ?知らないけど。トイレとかじゃないの。」
深司は興味なさげに言った。
「そうか。んじゃ、待ってれば帰ってくるよな。」
俺はの席に座って、深司を話し相手にしながらを待った。
けれど、いつまで経ってもは戻ってこなくて、深司もさすがに我慢の限界を超えたらしく、ボヤキ始めた。
「だいたいさ、何で俺まで弁当食べずに待たなきゃなんないわけ?そんなの神尾だけで十分でしょ・・・・・あーぁ、あと1分で昼休み終わっちゃうよ・・・・・ホント、迷惑だよなぁ・・・・ねぇ、神尾?」
最後の一言だけ普通に言って、俺を責めているらしい。
「悪かったって!!ごめん、深司。」
俺が謝るのと同時にチャイムが鳴った。
「あーぁ、終わっちゃった・・・結局、弁当食べ損ねた・・・お腹空いたなぁ・・・」
「じゃ、じゃあ、俺、自分の席に戻るから!!」
俺は深司がこれ以上ボヤキ始める前にそそくさと自分の席に戻った。
授業が始まっても、は戻ってこなかった。
が戻ってきたのは、放課後になって、教室に俺と深司以外誰もいなくなってからだった。
「!?・・・ぁ、れ・・・?アキラと深司居たの・・・。部活は?」
は誰も居ないと思っていたらしく、俺たちを見てひどく驚いていた。
「今日は休みなんだ。だから、3人でどっか遊びに行こうかと思って待ってたんだよ。」
「俺は帰るつもりだったんだけど、神尾が無理やり・・・・」
「もう深司は黙ってろよ・・・・・」
ボヤキ始める深司を制して、俺はに向き直った。
「どうだよ?遊びに行こうぜ。」
「あー・・・・うん。行きたいんだけど、ちょっと気分悪くてさ、帰ろうと思って・・・」
そう言われて、の顔色が悪いことに気づいた。
「え?大丈夫かよ?あ、家まで送ってってやるよ。」
「ううん、大丈夫。一人で帰れる・・・・ぁ・・・」
は良いながら、よろけた。
「大丈夫じゃねぇじゃん。今まで保健室行ってたのか?」
「うん・・・。」
「じゃあ、帰るか。」
深司も無理やりつき合わせて、の家に向かった。
「あがってってよ。」
の家に着き、が俺らを家の中へと招く。
「え?大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、今お母さん居ないから。」
「そっか、じゃあ、少しだけ・・・な、深司。良いだろ?」
「まぁ、居ないなら・・・」
俺も深司も、の母親に歓迎されていない。
正確には俺たちじゃなくて、“他人”だ。
の母親はとても神経質で、他人が家の中に入るのを嫌う。
以前、俺と深司がの家を訪れたときに、の母親に、文字通り、外へと叩き出されたのだ。
それ以来、俺も深司もの母親が居ないときを狙って遊びにきたりもした。
「あんまり、長い間は無理かもしれないけど・・・」
玄関の鍵を開けながら、が言った。
「あと・・・1時間くらいかな。お母さんが帰ってくるまで。」
「そっか、わかった。」
「俺はすぐ帰るから・・・・」
深司は心底嫌そうだった。
は母親のせいで自分を殺してしまっている。
母親に俺らが家に上がったことに気づかれると、が苦しむのだ。
母親が帰ってくるギリギリの時間まで俺たちは他愛もない会話をした。
話をしているうちに、段々、の顔色も良くなってきた。
「じゃあな、また明日。」
「うん、また明日ね。」
「今日こそは早く寝るんだぞ。ぶっ倒れても知らねぇぞ。」
「言われなくてもわかってるよ。」
「が体調崩すと神尾が五月蝿いからなぁ〜・・・気をつけてよね、ホント・・・」
俺とが軽く言い合いをしていると深司がボヤいた。
「深司、あのなぁ・・・・」
「あはははは、気をつけるよ。」
「も笑い事じゃねぇっての!!」
「あ、そろそろ帰ってくるんじゃない?神尾、帰るよ。」
深司が携帯で時間を確認して言った。
「あ、マジで?そんじゃ、俺らもう帰るな。」
「うん、ごめんね。バイバイ。」
俺と深司は慌てての家から離れた。
いつか、束縛から開放されたら思い切り羽を伸ばそうな。
いつだったか、そう約束した。
自分らしく、生きるために。
*おわり*
+あとがき+
難しいお題でした・・・
こんなので良いのかなぁ?
『らしさ』っていうのは、自分の個性とかそういう意味なんですよね・・・。
間違ったな、私。