気のきいた言葉とか、プレゼントとかなんて、いらない。
僕はただ、君にそばにいて欲しいだけなんだ・・・
願うのは
友人の桜庭零一と人目を忍ぶように恋愛関係になって、もう何年経つだろう。
未だに零一は、ほんの少し指先が触れるだけで顔を真っ赤にして取り乱すのだけれど・・・・随分と長く続いているはずだった。
ちなみに、僕たちの関係は友人にすら知らせていない。
勘の鋭いあの人には気づかれているだろうと思う。
「ん・・・おはよ、レイ・・・・あれ?」
昨夜は、零一のバイトが終わるのを待ってから、一緒に零一の部屋に来た。
そして、特に何をするわけでもなく、ただ他愛ない話をしながら眠りについたのだ。
今日は零一のバイトは休みだから、一緒に過ごせるはずだったのだけれど、目が覚めてみると彼の姿はどこにも見当たらなかった。
ふと、枕元にメモ用紙が一枚だけ乱雑に置かれていることに気づき、そのメモを手に取った。
「・・・・・すぐに帰る、か・・・」
いつ出かけたのかはわからない。
一体、どこへ何をしに行ったのだろう・・・。
何となく、置いてけぼりを食らったような気分になる。
視界が滲み出す。
―――ガチャ
不意にドアが開く音が聞こえ、僕は玄関に視線を向けた。
「ただいまー・・・・・!?」
ドアを開けて入ってきたのは、この部屋の主である桜庭零一だった。
零一は僕の顔を見るなり血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「どうした!?何で泣いてるんだ!?」
零一は僕の前に座っておろおろと取り乱している。
「・・・・・置いていかれたのかと思った・・・」
呟き、ぎゅっと零一の手を握り締める。
「・・・・ごめん。今度は一緒に行こうな。」
零一は僕を抱きしめてくれたけれど、緊張しているのか少し震えていて、僕は思わず小さく噴き出してしまった。
「何で笑うんだ・・・」
零一はブツブツと文句を述べているけれど、僕を離したりはしなかった。
「・・・・どこに行ってたの?」
少し落ち着きを取り戻し、僕は零一に問いかけた。
「あ?あー・・・秋の奴が、朝っぱらから押しかけてきて、買い物に行きたいとか言うから少しだけ付き合ってたんだ。」
そして、零一は何度も何度も、ごめんと繰り返した。
「もう良いよ。帰ってきてくれたから。」
「・・・サンキュ。あ、これ土産。」
零一はそう言ってジャケットのポケットから小さな袋を取り出した。
袋の中から出てきたのは、ガラス細工の金魚がついたキーホルダー。
「どうしたの、これ・・・」
僕はビックリして零一の顔を見た。
「秋に付き合って行った店で見つけたんだ。、金魚好きだろ。」
零一は少し照れくさそうに頬を指でかいた。
「・・・ありがとう。大事にするね。」
「おう。」
本当は、こんな贈り物は必要ないんだよ。
ただ、零一が僕のそばにいてくれるだけで良いんだ。
ずっとずっといつまでも・・・一緒にいられることだけを願っている。
*終わり*
+あとがき+
薬屋探偵シリーズからゼロイチにしてみました。
本当は秋とかリベザルとかも出したかったんですが・・・無理でした。
ちなみに、主人公も妖怪です。