【第二話】
新魔王陛下とお友達になってから、一ヶ月近くが過ぎた。
陛下のことを名前で呼ぶことには大分慣れてきたけれど、やっぱりまだ違和感を感じる。
「・・・・・何をしている?」
目の前にあるドアを叩こうかどうか迷っていたら、後ろから声をかけられた。
「え、あ、お養父様・・・」
振り返ると、そこには養父のフォンヴォルテール卿グウェンダルとその弟で僕の友人でもあるフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムが立っていた。
そう、僕が今いるところは地球の日本ではなく、眞魔国のヴォルテール城なのである。
「いえ、その・・・・・陛下にお飲み物をお持ちしたんですけど・・・」
今、僕の前にあるドアの向こうには陛下が来ている。
ギュンター様に言われ、陛下のために紅茶を淹れてきたのだけれど、中は何やら揉めているようで、かすかに陛下が怒鳴る声が聞こえる。
「気にせずに入れば良いじゃないか。ユーリだって、いきなりお前に怒鳴りかかったりはしないだろう。」
ヴォルフラムに言われ、僕は小さく頷いた。
お養父様は何も言わずに、部屋のドアを開いた。
「・・・・・・・・だいたいなんだよ不穏な動きって、具体的に言ってくんなきゃわっかんねーよッ」
陛下の怒鳴り声が聞こえた。
「金に任せてやたらと法術士を集めている。人間どもが我々魔族と渡り合うには、法術使いが不可欠だからな
」
お養父様がそう答えながら中へ入って行き、僕とヴォルフラムも後に続いた。
僕は陛下の顔を見ないように、テーブルに紅茶を並べた。
「・・・そいつが私の城に入る許可を、与えた覚えはないのだがな」
お養父様の声が聞こえ、僕は一瞬、陛下の方を見てしまった。
一瞬、陛下と目が合ったように思ったが、ヴォルフラムが陛下に掴みかかったため、すぐに顔は見えなくなった。
「・・・・・・・・失礼します。」
騒々しい中、僕はテーブルを離れ、ドアのところで一礼し、足早に部屋から離れた。
* * * * * * * * * *
「え?ヴァン・ダー・ヴィーア島?」
お養父様たちが部屋から出る頃を見計らって、紅茶のカップを片付けに行くと、柱の陰からヴォルフラムが出てきて、今すぐ旅に出るから用意しろ、と言った。
詳しい話を聞くと、陛下とウェラー卿コンラートが、魔剣を手に入れるために二人でヴァン・ダー・ヴィーア島に向かうということだった。
ヴォルフラムはお養父様に留守番を言い渡されてしまい、何とかして陛下たちについて行こうと企てていたらしい。
「そうだ。コンラートの荷物に紛れ込むぞ。」
「は?え?ちょ・・・・・片づけが・・・・」
僕はトレイにのせたカップを見下ろした。
ヴォルフラムがそのトレイをテーブルに戻し、僕の腕を掴んだ。
「その辺の奴に頼んでおけば良いだろう。早くしろ、。間に合わなくなる。」
僕はヴォルフラムに引きずられるようにして連れて行かれた。
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+あとがき+
今回は眞魔国での話です。
実はグウェンダルの養子でヴォルフラムと仲良しなのです。