晩夏





+A side+




  8/25(水) 23:56


携帯で確認すると、そんな表示だった。


―――あぁ、そういえば、明日だったな。


そんなことを考えながら、携帯を閉じた。
休む間も無く過ぎていく日々に、これは本当に夏休みなのか、と疑いたくなる。
生徒会長などという役職に就いたばかりに、恋人と過ごす時間が削られてしまった。
たとえ生徒会長じゃなかったとしても、部活に追われて会えなかっただろうけれど。


「・・・・・・電話してやるか。」


明日は大事な生徒会役員会議があることを思い出した。
きっと会うことさえもままならないだろう。
メールにしてもいいが、メールでは、相手の感情が読み取れない。
アイツのことだから、強がるに決まっている。


Trrrrrrr.....Trrrrrrr......Trrrrrrr......


『・・・・・・おわっ・・・・・も、もしもしっ!?』


やっと繋がったと思ったら、何やら大きな音がして、慌てた様子の神尾が出た。


「・・・・何やってんだ、バーカ。」


『う、うるせぇっ!!!こんな時間にかけてくるのがワリィんだろ!!』


文句を言いながらも、嬉しそうなのが読み取れる声音で、自然と笑みが零れてくる。


『・・・・・・・なぁ、跡部。忙しいんじゃねぇの?』


こちらを気遣うような問いかけに、俺は簡潔に答えた。


「・・・あぁ。学園祭やら部活やらで色々と、な。」


『ふーん。電話なんかしてて良いのかよ?』


「あーん?まぁ、お前が嫌なら切るぜ?」


返ってくる返事はわかりきっているが、からかうために言ってやる。


『や、それは・・・・べ、別に、イヤじゃねぇ・・・し・・・。』


慌てた様子で、神尾は言った。


それから1時間ほど他愛も無い話を続けた。
とは言え、神尾が一方的に話していただけだったが。
電話を切りたくない、という気持ちが神尾だけでなく俺の中にもあることに気が付いた。
そしてその想いが、神尾に会いたい、と訴えかけてくる。


「・・・・・・・そろそろ切るぞ。」


『ぇ?』


これ以上声を聞いていては、顔を見たくなってしまう。
そう思い、俺が告げると、神尾の名残惜しげな声が聞こえた。


「明日も部活なんだろ。いつまでも起きてねぇで、早く寝ろ。」


悟られないように感情を押し殺した。


『・・・・・・・うん。おやすみ・・・。』


寂しそうな神尾の声に、胸が締め付けられる気がした。


「あぁ。またな。・・・・誕生日おめでとう、アキラ。」


言い終わるや否や通話を切った。


―――寂しい思いをさせてごめんな・・・


そう心の中で謝った。









* * * * * * * * * *









+K side+




夢の世界に入りかかった時に突然、机の上の携帯が鳴り、俺は現実に引き戻された。
一瞬、何なのかがわからなくて、反応が遅れた。
だけど、鳴っているのが特定の相手からの着信を告げる音で、俺は慌てて飛び起きた。
そして通話ボタンを押した瞬間、ベッドから転げ落ちた。


「・・・・・・おわっ・・・・・も、もしもしっ!?」


出るのが遅い、と怒られるかと思って、かなり焦った。


『・・・・何やってんだ、バーカ。』


だけど、予想に反して、跡部は呆れた声でそう言った。


「う、うるせぇっ!!!こんな時間にかけてくるのがワリィんだろ!!」


本当は嬉しいくせに、こういう言い方しか出来ない自分が嫌になる。


「・・・・・・・なぁ、跡部。忙しいんじゃねぇの?」


そんな自分を誤魔化すために問い掛けた。


『・・・あぁ。学園祭やら部活やらで色々と、な。』


ちょっとぐらい顔が見たいな・・・と思ったけれど、跡部は忙しいのだから無理だからと思い直す。


「ふーん。電話なんかしてて良いのかよ?」


忙しいのに、こんな時間に電話してても良いのだろうか・・・・体を壊しやしないだろうか・・・
そんなことばかりが気にかかる。
跡部なら自己管理も完璧なのに。


『あーん?お前が嫌なら切るぜ?』


頭に跡部のイヤミっぽく笑う顔が浮かんだ。


「や、それは・・・・べ、別に、イヤじゃねぇ・・・し・・・。」


いつもの意地悪だとわかっていながらも、焦ってしまう。


そのあとは、ずっと俺の話を聞いてくれた。
会えなかった間に起きたことや言いたかったこと・・・いっぱいいっぱい話した。
跡部はほとんど何も言わなかったけれど、話を聞いてくれるってことが俺はすごく嬉しかった。


“跡部に会いたい”


本当に言いたいことを飲み込んで・・・。


『・・・・・・・そろそろ切るぞ。』


「ぇ?」


まだ、跡部に話したいことはたくさんある。


『明日も部活なんだろ。いつまでも起きてねぇで、早く寝ろ。』


俺を気遣ってくれるんだ、と思う反面、跡部も疲れてるのかもしれない、と思った。


「・・・・・・・うん。おやすみ・・・。」


だから、これ以上ワガママを言って、困らせちゃいけない。


『あぁ。またな。・・・・誕生日おめでとう、アキラ。』


すごく寂しくて、泣きそうだったけど、最後の一言を聞いて、俺の心臓はバクバクと忙しなくなった。


「跡部・・・・・・・好き・・・・」


通話の切れた携帯を抱きしめて、俺はそう呟いた。




*おわり*




+あとがき+


偽跡部様警報発令(爆)


遅くなりましたが、神尾BD小説です。
書いていてすごく恥ずかしいんですけど、皆様はどうでしょうか?


蒼音がイメージイラストを描いてくれましたココ