夕焼けに染まる横顔





冬は日が暮れるのが早すぎると思う。
日が暮れる前に練習を終えないと、ボールが見えなくなってしまうから、放課後の練習はあっという間に終わる。
一応不動峰にもナイター設備はあるが、橘さんが引退した今は、ほとんど活用されていない。
橘さんが引退するまでは毎日のように居残り練習をしてきていたけれど、今は経費削減だか何だかであまり使わせてもらえなくて、これだから公立は・・・と思ってしまうときもある。
物足りないからと、深司をストリートテニス場に誘っても、毎回断られてしまい、付き合い悪いよなぁと思いつつも、所詮、口では深司に勝てないから、敢えて問い詰めるようなことはしない。
だから、いつも、「そっかー、じゃあまた今度な」と言って別れる。
で、俺は一人でストリートテニス場へ向かうのだ。
今日もいつもと同じく、深司に断られたから、一人で行くことにした。


「・・・・・・・あれ?」


ぼんやりと歩いていた所為で、まったく気づかなかったが、少し離れたところに深司の後ろ姿があった。
先程、逆方向へ歩いていったと思っていたけれど、わざわざ回り道でもしていたようだった。


「・・・・・・そんなに俺と帰るのが嫌だったのか・・・?」


冷たいやつ、と呟きながら足元の小石を蹴った。


「・・・・あ。千石さんじゃん。」


もう一度、深司の方を見ると、物陰に隠れていて気づかなかったが、深司の隣に千石さんの姿が見えた。
楽しそうに愛しそうに寄り添って歩く姿を羨ましく思った。


「なぁんだ。デートだったのか。」


それじゃあしょうがないよなぁ、と納得する。
俺も跡部に会いてーなぁ・・・
とか考えていたら、


「イテッ。誰だよっ!?」


突然、頭を叩かれて、俺は後ろを振り返った。


「何ブツブツ独り言言ってやがるんだ?アーン?」


そう言って不機嫌そうに眉間に皺を寄せて俺を見下ろしているのは俺の求めていた人物、跡部景吾だった。
そして、その右手には分厚い本があって、もしかしてそれで俺の頭を叩いたのか!?と思ったらはらわたが煮えくり返りそうになった。


「痛いじゃねぇか!!何すんだよっ!?」


叩かれたところがこぶになっていやしないかと慌てて手で押さえたけれど、幸いこぶはできていなかった。
とてつもなく痛いけれど・・・


「そういうお前は、俺様のメールを読んでねぇんだろーが。さっさと携帯出して見やがれ!」


横柄な言い草でそう言い放ち、跡部は本をカバンにしまった。
わざわざこのためにカバンから出したのかよ、バカだなぁ・・・と心の中で笑ってしまったことは秘密にしておこう。


「・・・って、は?メール?」


俺はカバンを開けて携帯を探り出した。
すると、ディスプレイには「メール1件」と表示が出ていた。
あれ?バイブ鳴ったか?と思いながらメールを確認すると、それはやっぱり跡部からのもので、「部活後迎えに行くから不動峰の正門前にいろ」と書かれていた。
受信時刻を見ると、部活が終わる直前に送られてきていて、いつも部活後には携帯を確認するようにしていたのに、今日はぼんやりしていたため、このメールに気づけなかった。
ふと辺りを見渡せば、もう既に学校から大分離れた場所にいて、もうすぐいつも行くストリートテニス場が見えてくるような場所だった。
ということは、跡部は校門に俺がいないのを見て追いかけてきたということだろうか・・・


「悪ぃ・・・見るの忘れてた。」


「ったく、お前携帯持つ意味ねぇな。」


「ウルセェ!で、何の用だったんだよ?」


呆れたようにこれ見よがしに溜め息をつく跡部に軽くパンチすると、跡部は難なくそれを片手で受け止めた。


「今からストリート行くか、俺の家に行くか、どちらか選べ。」


「はぁ?なんだって?」


突拍子もないことを言われ、思わず聞き返してしまった。


「二度も同じこと言わねぇっていつも言ってるだろうが。早く選べ。」


「え?あ、跡部んち。」


跡部に急かされ、俺は迷うことなくそう答えた。


「そうか。じゃあ行くぞ。」


跡部は満足そうに笑い、くるりと方向転換をし、さっさと歩き出してしまう。


「あ、ちょっと待てよ!!」


俺は急いで跡部の隣に並び、そっと跡部の手に自分の指を絡めた。
手袋越しにも伝わってくる跡部のぬくもりにホッとする。


「珍しいな。どういう心境の変化だ?アーン?」


跡部が少し驚いたように俺を見た。


「・・・・・たまには良いだろ。別に。」


さっき見た、深司と千石さんの姿のように俺たちも見えたら良いなと密かに願った。
チラッと跡部の横顔を見上げてみると、オレンジの夕日が跡部の綺麗な顔を照らし、より一層綺麗に魅せていた。


(好きだよ、跡部・・・)


恥ずかしくて声には出せないけれど、それが俺の本心だと自信を持って言える。




*おわり*


+あとがき+


甘々でラブラブなベカミです。
ビミョーに千伊武でした。