届かない想い
練習が終わり、帰宅するべく校門に向かう。
ふと校門のところに見慣れた赤い頭が見えた。
「・・・・向日さん?何やってるんですか?」
近くまで行き、声をかける。
「え?あ、日吉。今帰りか?」
「そうです。向日さんは・・・・・・何か探し物ですか?」
先ほどから向日さんは地面を見下ろしてキョロキョロしていた。
俺が声をかけてからも目線は地面を彷徨っている。
「ああ・・・さっき、人とぶつかった拍子にケータイのストラップが千切れちまったんだよ。で、どっかに飛んでったみたいでさ・・・・」
よっぽど大事なものだったのか、向日さんは必死になって探しているようだった。
「俺も手伝いましょうか?」
「え!?良いのか?サンキュ、助かる」
向日さんはパッと花が咲いたように笑った。
「それで、どういうやつなんですか?」
「えっと・・・・・これくらいの大きさの、銀色の羽根のやつで・・・・」
向日さんはそう言って、両手の指先で五センチくらいの楕円を作った。
「・・・・・・・それって、もしかして、先月の誕生日に忍足さんに貰ったとかいう・・・・」
向日さんの説明を聞いていたら、ふと思い至った。
先月の向日さんの誕生日プレゼントとして、忍足さんが向日さんに贈ったストラップ。
貰ったその日に、ウキウキと携帯電話に取り付けていたのを思い出した。
「え?あ、そうそう!!侑士に貰ったやつ。よく覚えてたなぁ、そんなこと」
嬉しそうに笑う向日さんを見て、胸がチクリと痛んだ。
「・・・・・あれだけ子どもみたいに自慢されれば誰でも覚えますよ」
平静を装って憎まれ口を叩くと、向日さんは少しだけムッとしたように眉を寄せた。
「悪かったな。どーせ俺はガキっぽいよ」
そう言いながらも目線は変わらず足元にある。
そんな態度を見て、やっぱりと思う反面、悔しい気持ちが沸き起こる。
目の前にいるのに、話をしているのに、目線を合わせてくれないということは、向日さんにとって俺は大した存在ではないということの表れだからだ。
「・・・・・・このあたりで間違いないんですか?」
「多分な・・・・・・」
向日さんは自信なさげに呟いた。
千切れた後、誰かに蹴飛ばされた可能性もないとは言い切れないのだろう。
俺はとりあえず少し離れた場所を探すことにした。
そして数十分後、校門の手前の側溝の中に落ちているストラップを見つけた。
やはり誰かに蹴飛ばされていたようだ。
「向日さん、ありましたよ」
そっと拾い上げ、おろおろと探し回っている向日さんに見せる。
目を細めてこちらを見た向日さんが目をまん丸にした後、本当に嬉しそうに笑った。
その笑顔は今まで見た中で最高の物で、かあっと体中が熱くなった。
だけど、それは決して自分に向けられたものではない。
わかっているのに、勘違いした自分が恥ずかしい。
「ありがとなー日吉!!」
ぴょんと飛び跳ねて駆け寄って来た向日さんは満面の笑みでストラップを受け取った。
指先でつまんでくるくると回しながら傷が無いか確認する。
「・・・・・・見つかってよかったですね」
「おう!・・・・・・っと、もうこんな時間か。遅くまで悪かったな」
携帯にストラップをつけようとしてサブディスプレイの時計が目に入ったらしく、そう言って顔をあげた。
「いえ・・・・」
不意に向日さんと目が合い、俺は咄嗟に目をそらしてしまった。
「そんじゃ、俺帰るわ。また明日な!!」
向日さんはそう言って手を振り、くるりと向きを変えると、そのまま校門を駆け抜けていった。
俺が帰ろうとしていたときにはまばらにいた生徒たちの姿はすでになく、俺は暗闇の中ポツンと一人取り残されている。
「・・・・・・一緒に・・・・・」
帰りませんか。
その言葉を告げる前に去っていった向日さん。
帰る方向が途中まで同じなのだから、一緒に帰ろうという言葉が出てもおかしくないだろう。
これが忍足さんや宍戸さんたちだったら向日さんはきっと間違いなく誘っていたはず。
そう思ったら、胸が痛んだ。
「・・・・・・・・・・」
いい加減諦めろ。
この状況は俺にそう言っているようにしか思えないけれど、そんな簡単に諦められる想いじゃない。
簡単に諦められるなら一年も想い続けてはいない。
多分きっと、これからも俺は彼を想い続けるだろう。
この想いが報われることはないと知りながら・・・・
*おわり*
+あとがき+
日吉の片思い。
一応悲恋になるのかな?