見えない告白




いつからかわからないくらい、自然に、俺の目はある人を追いかけている。
目が合う度に、笑いかけてくれる度に、嬉しくて、だけど、苦しくて・・・
でも、目が勝手にあの人を追いかけてしまう。
それが何なのか、気づくのに時間はかからなかった。


「・・・・・桃先輩、遅いな・・・何してんだろ?」


放課後の練習が終わり、帰る仕度をしていると、桃先輩に、一緒に帰ろうと誘われた。
誘われたことが嬉しくて、俺は何も考えずに頷いた。
そして、帰ろうと揃って部室を出たら、桃先輩が女の先輩に呼び止められた。
俺に、自転車置き場で待ってろと言って、桃先輩は女の先輩とどこかへ行った。
俺は二人を見送って、一人で自転車置き場に向かった。
だけど、待っても待っても桃先輩は来なくて、俺は何度も携帯で時間を確認した。


「遅すぎる・・・」


二人を見送ったあたりから、じわじわと不安が押し寄せてきている。
俺はそれにわざと気づかないフリをしていたけれど、そろそろ限界かもしれない。


「・・・探しに行こう。」


桃先輩の自転車の荷台から飛び降りて、部室の方へ向かった。



「・・・確か、こっちの方に行ったはず・・・」


部室の前から、桃先輩たちが歩いていった方向にゆっくりと足を進めた。


「・・・・・・ん?話し声?」


校舎に近づくと、ボソボソと話し声が聞こえた。
俺は声のした方を見つけ、すぐに向かった。


「・・・ったく、まいったなぁ・・・」


戸惑っているような桃先輩の声がして、俺は足を止めた。
俺は校舎の陰に身を潜めて、そっと覗き見た。
そこには、困りきった顔で立ち尽くす桃先輩と、その足元で泣き崩れている女の先輩の姿があって、俺は驚いた。
あの誰にでも優しい桃先輩が、女の人を泣かすようなことをしたのかと思って、しばし呆然とした。


「・・・・・なぁ、泣き止んでくれよ。そうやって粘られても、俺は付き合うつもりないって・・・好きな奴いるって言っただろ?」


“好きな奴”
桃先輩のその言葉だけが妙に鮮明に聞こえて、苦しくなった。
その言葉を聞いて真っ先に浮かんだのが、不動峰の部長の妹・・・あの、杏とかいう人。


「・・・はぁ。越前待たせてっから、俺もう帰るな。」


いつまでたっても泣き止まない女の先輩に嫌気がさしたのか、桃先輩がゆっくりとこちらに向かって歩き出してきた。


「まっ・・・待ってよ、桃城くん!!」


女の先輩の叫ぶ声がして、桃先輩が足を止めた気配がした。


「・・・・せめて、その、好きな人の名前、教えて・・・」


途切れ途切れに、女の先輩がそう言った。


「・・・・越前リョーマ。まだ、本人にも言ってねぇんだから、誰にも言わないでくれよな?」


桃先輩は少し間をあけて、そう言った。
思いがけないところでの告白に驚いた俺は、慌てて逃げるように自転車置き場へ走った。


「・・・・はぁ・・・」


自転車に手をつき、桃先輩の言葉を反芻する。
嬉しくて死にそうだ。
熱くなった頬に手を当てて、ずるずると地面に座り込んだ。


「びっくりした・・・」


嬉しいという気持ちと信じられないという気持ちとが合わさって、複雑な気分だ。
桃先輩が、あの場でどんな表情で俺の名前を言ったのか、見れなかったのが悔しい。
でも・・・・いつか、面と向かって言ってくれる日が来るかもしれないと思うと、その時まで楽しみにしておこうとも思う。


「どうした、越前?気分悪いのか?」


心配そうに駆け寄ってくる桃先輩。
俺は赤くなった顔を隠すように立ち上がり、


「何でも無いッス。それより、遅すぎ。何してたんスか?」


平静を装って、いつものように憎まれ口を叩く。


「悪ぃな、ちょっとアクシデントがあってよ‥‥。どっか寄ってこうぜ。腹減っちまった。」


自転車を出しながら、桃先輩がそう言った。


「‥‥ふーん。良いけど、奢りッスか?」


「しょーがねぇな。長い間待たせちまったから、今日は奢ってやるよ。」


言葉ほど嫌がっている風ではなく、どこか楽しそうにさえ聞こえた。


「トーゼンでしょ。」


サドルに座った桃先輩の背中にもたれるように荷台に座り、ラケットバッグを抱えた。


「よし、行くか!」


「ッス。」


俺が返事すると同時に、風を切るように走り出す自転車。
ずっとこのまま、一緒に居られるといいな。

いつか訪れる最高の幸せの瞬間を祈って・・・




*おわり*




+あとがき+


久しぶりの桃リョです。
相変わらず、意味不明な話ですいません。
片想いを書くつもりだったんですけど、なんだか恥ずかしい話に仕上がってしまいました(苦笑)
タイトルとあんまり関係ない気が・・・?