好き




春の陽射しが心地よい、そんなある日の昼休み。
窮屈な箱のような教室にいるのが嫌で、屋上へ出た。


「・・・・あ、桃先輩だ。」


フェンス越しにグラウンドを見下ろせば、そこには見慣れた姿があった。
彼は数人のクラスメートと遊んでいるようで、楽しそうにサッカーボールを追いかけていた。


「へぇ・・・やるじゃん。」


桃先輩の蹴ったボールがゴールのネットを揺らし、得点になった。
上手いのはテニスだけじゃないんだなと思った。
こんなこと、本人に言えないけれど・・・・テニスをしている桃先輩は凄いと思うし、格好いいと思う。


「・・・・・・こっち見ないかな・・・」


言葉を交わさなくとも、通じ合えているような気がしている。
俺が何かしたいときには誰よりも早く桃先輩が察してくれるし、桃先輩の考えていることも俺にはすぐわかる。


「・・・・・・・・・あ。」


不意に、桃先輩が空を仰いだ。
そして・・・くるりと向きを変えて、こちらを向いた。
思わず握りしめたフェンスがカシャンと音を立てて揺れる。


(声が聞きたいな・・・)


ふとそう思った。
すると、桃先輩はしばらくこちらを見て、何かを取り出した。


ヴヴヴ...


学ランのポケットに入れた携帯のバイブが鳴る。
取り出してディスプレイを見ると、桃先輩からの着信だった。
少しドキドキしながら通話ボタンを押す。


『越前、おまえ俺に見とれてた?』


桃先輩は俺が出ると同時にそう言った。


「バカじゃないの?そんなわけないでしょ。」


恥ずかしくて素っ気ない返事をしてしまう。


『あっそ。あ、今日の部活、ミーティングだけだから、終わったらどっか遊びに行こうぜ?』


桃先輩は別段気にした風でもなく話を続けた。


「桃先輩のおごりッスよね?」


『ったく、しょうがねぇなぁ。今日だけだぞ。』


「じゃあ映画が良いッス。観たいやつあるし。」


『オッケー。あ、予鈴だ。授業中居眠りなんかするなよ!』


「そっちこそ、人のこと言えるんスか?」


『ウルセェ!じゃあ、また部活でな!』


通話が切れ、フェンスの下を覗くと桃先輩が俺に向かって手を振っていた。


「・・・・・・・まだまだだね。」


ほんの些細なことでも嬉しくてドキドキしてしまう。



――――早く桃先輩に会いたいな。




*おわり*




+あとがき+


リョーマ視点の甘々風味。
以心伝心とかそういうことが言いたかったんです。