Happy Birthday
+後編+
2階の自室へ向かい、静にドアを開けた。
先ほど部屋を出たときと寸分の違いもなく眠るジローの姿に、思わず笑みがこぼれた。
「ジロー、起きろよ」
軽く肩をゆすって声をかける。
ジローは、ウーンと唸って寝返りを打った。
「ジロー、起きろって」
「んー・・・・?なぁに?ちゃん・・・・」
寝ぼけ眼で俺を見上げるジローの髪を優しく撫でてやる。
「腹減ったろ。飯にしようぜ」
本来の目的を告げず、ジローを誘った。
ジローは数回目を瞬かせた後、ゆっくりと起き上がった。
「今日のご飯何〜?」
「何だと思う?」
「んー・・・・わかんない」
ジローは首を傾げながら立ち上がった。
「見てからのお楽しみってことで良いだろ」
俺はジローの手を引いて、部屋を出た。
階段を降り、居間へ向かうと、ドアの前に滝が立っていた。
「あれ?滝がいる〜。いつ来たの?」
ジローが不思議そうな顔で滝を見ている。
「さっき来たんだよ」
そう言って滝は居間のドアノブに手をかけた。
俺はジローの背を押してドアの前に立たせた。
「開けるよ」
滝がドアを開けると同時にパンッと大きな音がした。
「「「「ハッピーバースデー、ジロー!!」」」」
大きな音の正体は、居間の中にいるみんなが鳴らしたクラッカーの音だ。
トンとジローの背中を押して居間へ入れると、ジローは目を真ん丸に見開いてみんなの顔を見ていた。
「え?え?何?何なのコレ!?」
さっきまで寝ぼけていたジローが完全に覚醒し、部屋中見回して騒いだ。
「ジローの誕生日パーティーだ。15歳おめでと、ジロー」
「ちゃん・・・・・ありがとう!!大好きッ!!」
ジローが嬉しそうに笑って俺に飛びついてきた。
「どういたしまして。さ、座れよ」
一番奥のソファにジローを連れて行って、ジローを座らせた。
その間に滝が台所からジュースのペットボトルと氷を入れた容器を運んできた。
各々が好きなジュースをグラスに注ぎ、席に着いた。
「それじゃ、乾杯!!」
カチカチッとグラスが当たる音を響かせ、全員で乾杯をした。
それからはもう本来の目的なんか忘れたように、料理を食べたり、おかずの取り合いをしたりといつもの食事風景が広がった。
俺は一歩引いたところでみんなの様子を眺めた。
ジローの楽しそうな顔に自然と頬が緩む。
(こんな風に馬鹿騒ぎが出来るのもあと少しなんだよな・・・・)
夏が終われば3年生である俺たちはテニス部を引退する。
それからは受験勉強に励まなければならなくなる。
もちろん氷帝はエスカレータ式だから、ある程度の成績さえ保っていれば高等部へ進学できる。
ここにいるメンバーはきっと迷うことなくエスカレータに乗るだろう。
だが、俺は違う道を選んでいた。
まだ誰にも言っていない。
恋人であるジローにさえ伝えていなかった。
早く伝えなければどんどん言いづらくなることはわかっていた。
だけど、ジローのこの笑顔が、みんなのこの笑顔が、曇ってしまうことを思うと言えなかった。
「ちゃん!!どうしたの?」
ジローに呼ばれ、ハッと我に返る。
「・・・・ん?何もないよ」
「そう?これオイC〜ね。ちゃんが作ったの?」
ジローはそう言って、から揚げを口に放り込んだ。
「あぁ。サラダとかのナマモノ以外は俺が作ったよ」
「やっぱりね!!俺の好きな味だからすぐわかった」
嬉しそうなジローを見ていると、グダグダ悩んでいるのが馬鹿らしくなってくる。
今はまだ、楽しい時間のままでいようと思う。
「たくさん食べろよ。食べ終わったらケーキが待ってるからな」
「うん!!」
ジローは満面の笑みで大きく頷いた。
俺はそんなジローの頭を撫でた。
*end*
+あとがき+
ジロー夢・・・?
いまいちジローとの絡みが少ないですが・・・。