小さな幸せ
一昨日から期末試験が始まり、通常より早く学校が終わる。
居残ってテスト勉強をする者もいて、俺も鳳に誘われていたが、今日に限っては早く家に帰りたい。
今日は12月5日、俺の誕生日だ。
どこから聞きつけたのかは知らないが、ほとんどの者がそれを知っており、朝、登校したときから休み時間のたびにクラスメートだけではなくほかのクラスの人間や先輩後輩までもが大勢で押しかけてくるため、なかなか落ち着かない。それに、正直鬱陶しいのだ。
「あ、日吉!帰っちゃうの?」
いくつもの大きな紙袋を抱えて教室を出ようとすると、横から声をかけられた。
「あぁ・・・」
能天気な声に苛立ちを覚え、ジロリと睨みつけてやる。
しかし、鳳はまったく気にもせずにニコニコとしている。
(クソッ・・・こいつさえいなければ・・・)
この大荷物を抱えて帰る羽目になったのは、鳳の所為だ。
鳳は俺がプレゼントを断っているその場で『せっかく祝ってくれてるのにその好意を無碍にするなんて相手に失礼だよ』などと言ってのけたのだ。
その所為で、一度俺が断った奴らまでもが再び持ってきたり、新たな人間が増えたりしたのだ。
自分だったら断るくせに何を言っているんだコイツは・・・と恨めしく思う。
「跡部さんが生徒会室開けてくれるって言ってたのに・・・」
「断る。また明日。」
尚もブツブツと続けている鳳を無視して、さっさと昇降口へと向かった。
「・・・・・・はぁ・・・」
下駄箱を開けるのを一瞬躊躇した。
開けた後が想像つくのだが、開けないことには靴を履きかえれなくて帰れないため、腹をくくって扉に手をかけた。
ギュウギュウ詰めになっているのか、なかなか開かない。
「・・・・誰だ、こんなにも無理やり詰め込んだ奴は・・・」
地面に置いた袋に下駄箱の中のものを詰め込んで、靴を履き替えた。
「・・・・・・・はぁ・・・」
足元の紙袋を見下ろし、思わずため息をつく。
「・・・帰るか。」
重い気持ちのまま紙袋を抱えて校門に向かった。
「ぁ・・・・わ、若くんッ!!」
門を抜けると同時に聞き慣れた声が聞こえた。
「?どうしたんだ?」
紙袋が邪魔で姿が見えないのだが、確かに従弟のの声だった。
「学校はどうしたんだ?」
俺は紙袋を下ろし、顔を見てそう言った。
は氷帝の幼稚舎に通っている。俺の2学年下だから今は6年生だ。
幼稚舎の方は普通に授業があるはずなのだが、何故、がここにいるのだろうか。
「えっと、今は休み時間だから・・・それで、あの、お・・・お誕生日おめでとう!!」
はそう言って、小さな箱を差し出してきた。
「あ、あぁ・・・ありがとう。」
それを見て、さっきまでの苛立ちが嘘のように消えていくのを感じた。
「じゃあ、僕、学校に戻るね!!」
気が小さくて人見知りをするは、他の生徒が来る前に、逃げるように立ち去ろうとした。
「あ!今日の夜、泊まりに行くよ!!」
思い出したように振り返り、はそれだけ言って、幼稚舎の方へ戻っていった。
「可愛いな。」
俺はに祝ってもらえたことだけで、もう十分だと思った。
そして、に貰ったプレゼントは大切にしっかりと鞄にしまって、紙袋を抱え込んだ。
*おわり*
+あとがき+
日吉の誕生日は従弟にしてみました。
ラブがあるかどうかはわかりません。