Cherish
12月も終わりに近づき、冷たく澄んだ空気は少し痛いくらいだった。
クリスマスイルミネーションに彩られた街並みは、一人ぼっちの俺には辛すぎた。
「あーぁ・・・なんで、俺、一人なんだろ・・・」
今日はクリスマスイヴだ。
約束をしていたのに、今朝、突然キャンセルされてしまった。
部活の仲間達とクリスマスパーティーをするのだと言われたため、今日をとても楽しみにしていた俺は納得できなくて、問い詰めたら、喧嘩になった。
今まで、あんな風に言い争ったことなんて無かったのに。
『もう知らない!!!深司はどうせ俺のことなんかどうでもいいんだろ!?部活の大事な仲間と楽しんでろよっ!!』
泣きそうになるのを堪えながら大声で喚いて、電話を切り、携帯の電源もそのまま落とした。
一人きりで家に居たくなくて、出掛けたは良いが、どこへ行っても周りはカップルだらけで、うんざりしてしまう。
そして、同時に、ひとりぼっちの自分が惨めになった。
「・・・・・意地張らなきゃよかった・・・」
サイアクな気分だ。
深司に酷いことを言ってしまったことに対して自己嫌悪する。
深司を先に好きになったのも俺、付き合って欲しいといったのも俺・・・
深司から好きだと言われたこともないため、自信を失くしていた。
それが、あの電話の時に表れてしまったのだ。
言った後にすごく後悔した。
だけど、苛立ちの方が強く、一方的に電話を切った。
今もまだ、電源の入っていない携帯がポケットの中にある。
ポケットに手を入れて、指先で携帯に触れる。
ドンッ
俯き気味に歩いていたために、前から来ている人に気づかず、ぶつかってしまった。
勢いあまって尻餅をつく。
「たた・・・すみませ・・・」
「何しやがるんだテメェ!?服が汚れちまったじゃねぇか!!アァン?」
謝ろうと見上げた瞬間、ぶつかった相手に胸倉を掴まれた。
この辺りで有名な不良校の生徒だったのだ。
「すみませんっ・・・」
ガンをつけられ、恐怖で目を瞑る。
と、その時、
「ちょっと、俺の連れに手ェ出さないでくれる?ムカツクんだけど・・・」
聞き慣れた声が聞こえた。
恐る恐る目を開けると、不良の腕を掴んでいる深司が居た。
「深司・・・・」
走ってきたのか、肩で息をしている。
「何だテメェは!?」
不良が俺を突き飛ばし、深司に向き直った。
飛ばされた俺は再び地面へ尻餅をついた。
「・・・・ったく、何してんの。ボケッとしてるからこういう目に遭うんだろ。ちょっとは自覚しなよね、。」
深司が手を差し伸べて、立たせてくれた。
「テメェ、シカトしてんじゃ・・・・」
不良が深司に殴りかかろうとして、深司が振り返った。
「・・・・・・さっきから煩いよ。黙っててくれない?大体さぁ、どこが汚れてるって言うのさ。もともと汚かったんじゃないの?よくいるよね、そういう奴。人の所為にしていちゃもんつけて、いきがってるなんて馬鹿がやることだよ・・・あーぁ、サイアクだなぁ・・・なんでこんな奴がいるんだろ・・・」
ボヤきだした深司に、不良が怯む。
「ケッ・・・覚えてろ!」
そして、顔を真っ赤にして、ありきたりな捨て台詞を残して去って行った。
「・・・・・ありがと、深司。」
真っ直ぐ顔が見れなくて、俯き気味にお礼を言った。
「何で、携帯の電源切ってるの。その所為で俺がどれだけ走り回ったと思ってるんだよ。」
深司が珍しくボヤかずに言う。
その声は少し怒っているようだった。
「それは・・・・その・・・」
「まぁ、良いけど・・・俺も悪いんだし。」
言い淀んだ俺をどう思ったのか、深司がそう付け足した。
「・・・・・の言葉も、の行動も全部、心臓に悪すぎ。」
「え?」
「何で、自分だけだと思い込んでるのさ。好きなのも、今日会いたがってるのも、何で自分一人だけだと思ってんの?」
深司の言いたいことがわからない。
「どういう・・・・」
「俺も会いたかったって言ってんの。それくらいわかれよ。神尾じゃないんだし。」
「・・・・・なんで、そこでアキラが出てくるの?」
「神尾も同じこと言ってたから。跡部さんに。“俺のことどうでもいいんだろ!!”って。今朝、俺が家を出ようとしたら、神尾が来て、跡部さんにドタキャンされたからって強引に俺のこと引っ張ってくから断る隙も無かったし、橘さんたちにも連絡して、みんなでクリスマス会やろうってことになって、そこに、跡部さんとも誘おうって言ってて。なのに、どっかの誰かさんは話の途中で勘違いしてキレるし、泣くし・・・・」
「泣いてなんか・・・・」
「泣いてるだろ、今。」
深司はそう言って俺の頬を拭い、その涙で濡れた指先を見せてきた。
「・・・・・に泣かれると痛い。」
ポツリと言う深司の表情が、珍しく苦しげに歪んでいた。
「・・・・・・ごめん。」
謝ると、深司は、別にいいって言ってるだろ、と顔を背けて言った。
「・・・・・・・ほら。」
深司はそう言って、俺の首にマフラーを巻いた。
「え?」
「クリスマスプレゼント。持ってきておいて良かった。・・・・大体、何でそんな薄着で外歩いてるの。風邪引くつもり?」
深司がボヤきだした。
「ありがとう・・・あ、深司へのプレゼント、家に置いてきちゃった・・・」
「良いよ。どうせ今から行くんだし。」
「橘先輩たちとのクリスマス会は?」
「もうみんな解散してるんじゃない?どうせ、神尾は跡部さんとこだろうから。元々、跡部さんが来たら、俺たちは解散する予定だったし。・・・・・・・ほら。」
携帯をいじり、呼び出したメール画面を俺に見せた。
それは橘先輩からのメールで、“神尾の迎え(跡部)が来たから、俺たちは帰る”と書かれていて、これで仕切り直しが出来る、と深司が言った。
「じゃあ、行くよ。」
そう言って深司が手を差し伸べてきた。
俺はその手を掴み、深司に並んで歩いた。
(家に着いたら、真っ先に好きだって言おうかな・・・)
優しい深司が好きだと伝えたい。そう思った。
*おわり*
+あとがき+
今更クリスマスネタですいません。
深司のCD聴いたら書きたくなってしまったので・・・