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俺、がアイツと知り合って約1年。
部活もクラスも違うから、あまり関わり合ったことが無い。
時々、廊下とかで会った時に話をする程度だった。

お互いを意識したことだって、もちろん無かった。
だけど、いつの間にかお互いを必要としていて、気がつけば、隣にいた。
告白されたとか、告白したとか、目に見えてわかる明確なスタートがあったわけじゃない。
それでも、確実に、俺たちの新しい関係は始まった。


「・・・あ、バネだ。」


付き合うようになって2週間と少しが過ぎた。
部活が終わり、帰ろうと、校門へ向かうと、黒羽春風が門柱にもたれて立っていた。
バネは他の部活生が帰っていくのを眺め、誰かを捜している様子だった。
俺は立ち止まりかけた足を再び動かして、校門に近づいた。


「・・・!」


俺に気がついたバネが、はにかんだような笑みを浮かべて、俺を呼んだ。


「どうしたの、バネ。」


理由は大体予想がつくけど、俺の自惚れかもしれないと思って、訊いてみた。


「一緒に帰ろうぜ。」


予想通り、バネはそう言ってくれたから、少し、嬉しいと思った。


「うん。」


だから、俺は素直に頷いた。
俺が頷くのを確認して、バネは歩きだし、俺も隣に並んで一緒に歩いた。



他愛もない話をしながら、通学路から少し外れた道を歩く。
その方が、一緒に居る時間がほんの少し長いから。
学校から、普通に通学路を使って歩くと、5分程度のところに俺の家がある。
遠回りして歩いても10分程だ。
俺の家が近づくにつれて、バネの口数が何故か減っていく。
だけど、俺はあまり気にしない。
沈黙さえも、俺は楽しいから。
大切なのは、話すことじゃなくて、話す内容でもなくて、一緒に居ることだと思う。
それが幸せだと感じるから。


「・・・なぁ、・・・。」


俺の家の前に着き、立ち止まると、バネが意を決したように俺を呼んだ。


「何?」


20センチ高い位置にあるバネの顔を見上げた。
バネが何か言おうと口を開いたり閉じたりしているから、俺は待つことにした。



「明後日の日曜日、練習休みになったから、ふ・・・二人でどっか遊びに行かねぇ?」


顔を真っ赤にして、少し動揺しながらバネが言った。
初めてデートに誘われて、俺は嬉しくなった。
付き合い始めてから今まで、休日はバネがテニス部の練習のため、会うことすらままならなかったし、平日はお互いに部活があって、帰りが遅いため、遊びに行くことができなかった。
だから、これが初デートになる。



「うん、行きたい。」


俺が入っている新聞部は、土日には基本的に活動をしていないから、日曜日はあいている。
当然、俺は頷いた。


「マジ?」


バネがびっくりしたように言った。


「うん、マジ。」


もう一度頷くと、バネの顔が一瞬で綻んだ。
その嬉しそうな笑顔が俺は大好きで、ついつい見とれてしまう。


「じゃあ、明後日の朝、10時に迎えに来るからな。忘れるなよ?」


「うん、忘れないよ。」


本当に嬉しそうに言うから、俺も嬉しくなる。


「バネんとこは、明日も練習なんだよね。頑張って。」


「おう!頑張るぜ。・・・じゃあ、明後日な。」


名残惜しそうにバネが言う。


「うん、また明後日ね。楽しみにしてるから。」


俺はそう言って、バネの胸倉を引っ張って、顔を近づけ、キスをした。


「なっ・・・・!?」


バネが顔を真っ赤にして、思い切り動揺していた。


「じゃあな!!」


俺はバネから手を離し、飛び込むように家に入った。
そのまま2階へ駆け上がって、自室に入った。
顔が熱くなっているのがわかる。


「すっげぇ恥ずかしい・・・」


火照った頬を両手で押さえ、窓からコッソリ外を見下ろした。
丁度、バネが歩き始めたところだった。
段々と遠ざかっていく、バネの背中を見送り、窓から離れた。


「・・・バネのあの顔。面白かったなぁ・・・」


ベッドに寝転び、指先で唇に触れた。
初めて触れたバネの唇。
今まで、女の子と付き合ったこともあるから、キスは初めてじゃないけれど、こんなにも心臓がドキドキしたのは、初めてかもしれない。

恥ずかしいような照れくさいような。
だけど、ほんわか暖かくて、嬉しくて。
幸せだと、感じている。




俺たちの関係は、まだ始まったばかり。




そして、今、一歩を踏み出した・・・




*おわり*


+あとがき+

恥ずかしいなぁ・・・と思いながら書き上げました。
終わり方がちょっと無理やりすぎたかなぁと反省。

今思えば、主人公、苗字でしか呼ばれてないですね。
しかも、たった2回・・・