年越し
あと一時間ほどで2010年が終わるという時間。 俺は大晦日特別番組を見るでもなくテレビゲームに熱中していた。 「よし、あと少しでクリアだ・・・・・・」 コントロールを握る手にわずかに力が入る。 と、突然、携帯電話がけたたましい音を立てて鳴り出した。 「・・・・・・・・・・・・チッ」 無視をしようにも音が大きすぎて耳障りだった。 俺はゲームをポーズ画面にし、携帯電話を手に取った。 ディスプレイを見てみると、跡部となっていた。 「・・・・・・・・・・・・」 とりあえず通話ボタンを押して無言で耳に当てる。 『、今すぐ氷帝学園前に集合だ』 挨拶もなくいきなり跡部は言った。 「何で?」 『それは・・・・・・おいっ!!!』 『ちゃーん!初詣行こう〜!!』 跡部の声が遠くなり、ジローのはしゃいだ声が聞こえた。 思わず携帯を耳から遠ざけるくらい大きな声だった。 家に来ないと思ったら、ジローは跡部と一緒にいたらしい。 「面倒臭いんだけど?」 せっかく良いところだったのに邪魔をされた挙句、これからの時間まで奪われるなんて辛抱ならない。 『えー、一緒に年越ししようよ〜』 「・・・・・・家で、お前一人だったら良いけど?」 『除夜の鐘は?』 「行かない。明日の昼以降なら初詣に行っても良い。跡部とか他の奴連れてきたら二度と口きいてやらない」 『うーん・・・・・・わかった。じゃあ、跡部バイバイ』 ジローの声が遠ざかり、わずかに風を切る音がした。 『おい!!待てジロー!!人の携帯投げんなっ!!・・・・・・今すぐ来いよ、』 先ほどの風を切る音はジローが携帯を投げた音か、と納得する。 地面に落ちたような衝撃音がしなかったことから跡部は無事にキャッチしたようだ。 「私は行きません。良いお年を。おやすみなさい」 通話を切り、そのまま電源も落とす。 ジローが来るまでどれくらいかかるかわからないが、俺は再びコントローラーを握った。 三十分ほどすると、階下でインターホンのチャイムの音がした。 親父が応対しているようで、ボソボソと話し声が聞こえた。 程なくして階段を駆け上ってくる足音が聞こえ、部屋のドアがノックも無しに開いた。 「ちゃん、来たよ〜」 「おう。ちょっと待ってろ」 目はテレビに向けたまま俺はジローに言った。 「おじさんが、もうすぐ年越しそば出来るって」 ジローが俺の邪魔をしないよう、そっと隣に座った。 「・・・・・・よし、完了!」 最後の一撃を終え、エンディングが流れる。 「跡部怒ってただろ?」 「うん。ていうか、ちゃん、電源切ったでしょ?跡部が叫んでた」 「ウザイんだよ、アイツ。何で年末年始をアイツの顔見て過ごさなきゃなんねーんだよ」 誕生日だのクリスマスだの事あるごとに電話を寄越してくる跡部。 こっちの都合も考えろっての。 「アイツ、ついて来てねーよな?」 「当然!ちゃんと確認したし、大丈夫」 さすがの跡部も、よばれてもいないのに勝手に家に来るようなことはしなかった。 そこが良家育ちのお坊ちゃまらしいところだ。 「なら良い。じゃ、そば食うか」 俺はクリアデータをセーブし、テレビとゲーム機の電源を落として腰を上げた。 「今年は親父の手打ちだからまあまあイケると思うぞ」 「え!?おじさん、そば打つの!?」 「ああ、何かのテレビで手打ちそばの店が紹介されてて感化されたらしい」 ミーハーというか何というか・・・・・・親父はかなりの凝り性だ。 何でも興味を持ったら極めるまで意地でも止めない。 おかげで本業が疎かになり、何度ケツを蹴り飛ばしたことやら・・・・・・。 とはいえ、一度はまったらなかなか抜け出せないところはやっぱり血の繋がりを感じる。 俺の場合はゲーム一筋だけれど。 「へ〜楽しみ〜」 ワクワクと目を輝かせているジローと共に階下へ降りると、丁度完成したらしく出汁の良い匂いがしていた。 「うわ〜おいしそ〜」 食卓に並んだそばを見てジローが感嘆の声を上げた。 「ジローくん、おじさんの自信作だよ。まだまだあるから好きなだけ食べておくれ」 「はーい!」 俺とジローは並んで椅子に座った。 「「いただきます」」 手を合わせ、同時に挨拶をした。 「おいC〜!!おじさん天才!!」 そばをすすったジローが親父を絶賛し、親父はまんざらでもない風に笑った。 「ありがとう、ジローくん」 向かい側の席に座った親父もそばを食べ、満足そうに頷いた。 これでそばブームは終わっただろう。 次は何に興味を持つのだろうか・・・・・・まあ、生活に支障がない程度には認めてやろうと思う。 「そろそろか・・・・・・」 半分ほど食べたとき、テレビを見ていた親父が呟き、そのテレビを見てみると、丁度年越しのカウントダウンを始めたところだった。 『・・・・・・五、四、三、ニ、一・・・・・・ハッピーニューイヤー!!』 パンッ、パンッ、とテレビの向こうで紙吹雪が打ち出された。 「あけましておめでとう」 まず親父が先に言い、俺とジローは顔を見合わせ、息を揃えて 「「あけましておめでとうございます」」 と言った。 もちろん左手は親父のほうに差し出している。 親父は一瞬目を見開いた後、苦笑しながらポケットからお年玉袋を二つ出し、一つずつ俺たちの手のひらにのせた。 *おわり* +あとがき+ 跡部が憐れ・・・・(笑) 氷帝夢というより、ジロー夢ですね。 てか、ジローは年越しまで起きていられるんですかね? 誕生日やクリスマスは本編で書く予定です。きっと・・・・ |