Happy Birthday
-Atobe Keigo 2011- 「……誕生日?」 急に涼しくなった十月頭のある朝、登校したら朝練開始前という早い時間にも関わらず、テニスコートの周りはたくさんの女子生徒で溢れかえっていた。 キャアキャアと黄色い声が飛び交い、騒音にしか聞こえない中で、誕生日という単語が耳についた。 「……どうでも良いけど、これじゃ部室に近寄れないんですけど」 目の前の女子の固まりの中を強引に抜けていく気力はない。 かといって、声をかけて退いてもらう気にもなれない。 下手したら妨害に遭うだろう。 何て言ったって俺は女子の嫌われ者だから。 「……サボるか」 くるりと回れ右をして、この場を去ろうと思ったら、女子のざわめきが一層大きくなった。 「きゃあぁぁぁぁっ!!跡部様〜!!」 「お誕生日おめでとうございますぅ〜!!」 跡部が部室から出てきたようだ。 そして、誕生日の主が跡部であることがわかった。 どうりでいつも以上に女子が多いはずだ。 おそらく全女子生徒が来ているのだろう。 「バカバカしい」 俺は跡部に気づかれる前に場を離れた。 そのまま校舎へと向かい、無人の教室に入る。 「……祝えとか言いそうだよなアイツ……」 つい先日、宍戸の誕生日があり、その二週間ほど前には向日の誕生日だった。 二人の誕生日にはそれぞれ下校時に立ち寄ったコンビニで好きな食い物を一つ買ってやったのだが、跡部がコンビニの物で納得するとは思えない。 別に跡部とは友達ではないのだから、祝ってやる義理はないと思うが、八月の俺の誕生日をどこからか聞きつけて、盛大に祝ってくれたため、いつものように跡部なんか知るかと切り捨てることができない。 向こうが勝手にやっただけだと思えば切り捨てるのは簡単なのだが、何となくそれはやってはいけないことのように思えた。 「はぁ……」 俺はため息を一つこぼして教室を出た。 校舎内に生徒の姿はなく閑散としている。 誰にも会わないよう気をつけながら校舎を出て、裏門から外へ出た。 そのまま裏道を使って帰宅する。 「今から言うモン至急買ってこい」 未だにぐうすか眠っている父さんを叩き起こした。 ***** 「!!お前今までどこで何をしていたんだ!?アーン?」 夕方、学校へ向かうと、相変わらずテニスコートにはたくさんの女子が集まっていた。 どうやって中へ入ろうかと考えていると、テニスコートの方から跡部が飛び出してきた。 「家にいた」 俺はそう言って、持っていた紙袋を跡部に押し付けた。 「だから何で……ん?何だ?」 「この前のお礼」 跡部は訝しげに紙袋を開け、中からタッパーを取り出した。 「これは……」 タッパーの蓋を開いた跡部の目が見開かれる。 いつも偉そうにしている跡部がこんなに驚いた表情をしているのを初めて見た。 「ちゃーん!!いつ来たの?」 女子の向こうからジローが出てきた。 「あれ?跡部何持ってんの?うわぁ!!おいしそー!!何コレ?ちゃんが作ったの!?」 駆け寄って来たジローは跡部の手元を覗き込んだ。 「まあ……初めて作ったし実物を食べたこと無いから味の保証はしないけど……」 俺が跡部に渡した物は、跡部の好物だと聞いたローストビーフとヨークシャープディングというもの。 インターネットでレシピを検索し、なかなかうまくいかなくて何度も作り直したため、こんな時間になってしまった。 本当なら昼休みに間に合わせるつもりだったのだが……。 まさか俺が跡部の為にこんなに頑張ることになるとは思いもしなかった。 しかし、誕生日だから特別にと自分に言い聞かせて頑張ったのだ。 「へ〜、ちゃんすごーい!!!跡部良かったね!!……跡部?」 何の反応も示さない跡部に、ジローが不思議そうに声をかける。 「……他の人にもらった物に比べたらショボイし、気に入らなかったら捨ててくれて良いよ」 もしかして気に入らないのかと思いそう口にする。 「えー、跡部捨てるんなら俺にちょうだい!!」 「冗談じゃねぇ!!誰がお前なんかにやるか!!!」 タッパーに手を伸ばしたジローを跡部は思い切り振り払った。 「サンキュ、。やっぱお前、俺に惚れてるんだろ?いい加減認めろよ、アーン?」 「いや、それは天変地異が起こっても絶対にありえないから。まあ、気に入ってもらえたなら良かった。……誕生日おめでとう」 多分、初めてだと思うが、俺は跡部に笑顔を向けた。 *おわり* +あとがき+ 跡部誕生日おめでと〜!! 主人公の誕生日は本編で書きます。 |