rainy day
+後編+
「くん!」
昇降口で靴を履き替えているくんに声をかけた。
「・・・・・俺に用ですか、不二先輩?」
「あのさ、良かったら途中まで一緒に帰らない?」
「はあ、構いませんけど・・・・このためにリョーマに用事押し付けたんですか?」
やっぱりくんは鋭いな。僕の目論見がもうバレている。
「くんだって、一分で戻って来れるはずないのわかってて、あんな条件つけたんでしょう?」
「まぁ・・・・」
くんは悪びれる風でもなく、僕の指摘を認めた。
「少し待っててください」
くんはそう言うと、二年生の下駄箱の方へと歩いていった。
僕はその間に自分の靴を履き替えた。
出入り口の前で待っていると、くんがテニス部二年の桃城と話しているのが見えた。
桃城は困ったような顔でくんの話を聞いていたが、最後には小さく頷き、一緒に出てきたらしい友人たちに手を合わせて何やら謝っているようだった。
それを見届け、くんが出てきた。
「お待たせしました」
「そんなに待ってないよ。桃に越前のことでも頼んできたの?」
僕は持って来ていた折り畳みの傘を開きながら訊ねた。
「えぇ。さすがに大会前に風邪を引かせるわけにはいかないので」
くんはそう答えながら傘を開いて僕の隣に並んだ。
バタバタと雨が傘に当たる音が響く。
「へぇ・・・やっぱり優しいんだね、くん」
くんは冷徹なように見えて、案外優しい。
目に見えて優しくするのではなく、さりげなく相手のことを考えて、その相手にとって一番良い方法を選んで、こっそりお膳立てをするのだ。
「そういえば、あの二人、今朝の朝練で喧嘩してたんだよね」
実は桃城と越前は付き合っているらしく、しょっちゅう些細なことで痴話喧嘩をしていた。
今日みたいに朝練に来るまでは仲良くしていながら、いざ朝練が始まると、ちょっとした意見の食い違いなどで喧嘩を始め、練習が終わるころにはお互い近寄りもしなくなる。
「そうみたいですね。朝からずっと沈んでたんですぐわかりました」
くんは普段、越前たちが喧嘩をすると、それとなく仲立ちをしているらしい。
以前、どうしてそんなことをするのかと訊いたら、越前の愚痴に付き合うのが面倒くさいからだと言っていた。
まぁ、確かにこうも頻繁に喧嘩をされては、うんざりするだろう。
僕も英二の愚痴をたまに聞くが、何でそんなことで喧嘩をしているのかと不思議になることがあった。
「仲直りすると良いね」
「仲直りしてもらわないと困ります。リョーマの奴、喧嘩するたびに夜中でも部屋まで押しかけてくるんで・・・・」
従兄弟というのは羨ましいなと思う。
近くにいるからか、越前は頻繁にくんの家に遊びに行ったり泊まったりしているらしい。
僕も越前のようにくんと従兄弟だったら良かったのにと思う。
身近にいられるのなら、従兄弟じゃなくても良い。
兄弟でも友達でも・・・・・・恋人でも。
僕はくんと一緒にいたいと願っている。
くんは勘が良いから、僕の気持ちにはとっくに気がついている。
それでも僕のことを突き放したりしないのは、くんが優しいからだろう。
以前、さりげなく越前に聞いたところ、くんは他の学校に付き合っている人がいるらしかった。
越前はまだ相手と会ったことがないらしく、詳しいことは何も知らないと言っていた。
僕がくんの恋人になれる可能性はゼロだった。
だから、僕の想いが通じることはないけれど、ただの学校の先輩としてでも良いから、傍にいさせてほしいと願う。
「じゃあ、俺はこっちなんで・・・」
考え事をしていたせいで、いつの間にかいつも分かれる交差点まで来ていた。
少しもったいないことをしたなと思う。
「うん、じゃあ、またね。気をつけて」
「先輩の方こそぼんやりして車に轢かれないでくださいね。それじゃあ、さようなら」
「ははっ、気をつけるよ。さようなら」
くんは軽く会釈をして交差点を曲がっていった。
僕はその背中が見えなくなるまでずっと見つめていた。
「好きだよ、くん・・・・」
届かない想いを密かに告げながら・・・
*終わり*
+あとがき+
お読みくださり、ありがとうございました。
以前、サイト三周年記念で書いた、越前従兄弟夢の主人公と同一人物のつもりです。