sunny day
+side F+
ある日曜日、姉さんに頼まれて裕太と二人でおつかいに出かけた。
駅前にある商店街に向かうと、駅のロータリーにくんの姿を見つけた。
僕がいるこの位置からは豆粒くらいにしか見えないのにくんだとわかるのは、ひとえに愛のなせる技だろう。
(……なんてね)
出会ってから半年が経つ今でも僕たちの関係はただの先輩と後輩。
それ以上に発展する可能性はゼロだとわかっていても姿を見れば嬉しいし、話ができたらもっと嬉しい。
商店街に近づくと、くんの姿がはっきり見えるようになった。
くんは花壇の縁に腰掛けて本を読んでいる。
その隣にくんの従兄弟である越前リョーマとその恋人の桃城武が何かの雑誌を広げていた。
(どうしてあの三人が一緒にいるんだろう?)
普段、校内で三人が揃っているところを見たことがないから不思議だ。
じっと見ていると、不意にくんが本から顔を上げた。
人混みの方に顔を向け、わずかに口元を綻ばせる。
くんがそんな風に嬉しそうな顔をするところを初めて見た。
何を見つけたのか気になって、目線の先を追うと、駅前通りの人混みに紛れて見覚えのあるオレンジ色の髪が揺れていた。
(え?)
ぱっとくんの方を見ると、くんの視線は間違いなくあのオレンジ色の髪に向いている。
(まさか……)
信じられない思いで見つめていると、くんの顔から表情が消えた。
まるで人形のような冷たい顔でじっと見据えた後、おもむろに立ち上がると駅の方へと歩き出した。
隣にいた越前と桃城があたふたと辺りを見渡し、一点を見据えて硬直した。
その視線の先に目を向けると、オレンジ頭の男……山吹中の千石清純が高校生くらいの女の子をナンパしていた。
程なくして断られたのか、女の子が立ち去り、千石が駅のロータリーに入った。
千石は迷いのない足取りで越前たちに近づく。
越前たちは慌てたように何かを千石に話し、駅の方を指さした。
千石は越前たちに向かって拝むように手を合わせてから駅の方へ走っていった。
駅の改札に向かう階段の手前で千石がくんに追いつき、何度も頭を下げている。
二人の横を行き交う人々が奇異の眼差しを向け、居心地が悪くなったのかくんが千石の顔を上げさせて何かを告げる。
そして、ようやく和解したのか二人は手をつないでロータリーにいる越前たちの元へと戻った。
くんは少し俯いていたが、チラッと見えた口元が綻んでいて、やっぱりくんの恋人が千石なのだと思い知らされた。
まさかくんが千石みたいなタイプを好きだとは思わなかったが、千石を見つけたときに浮かべた嬉しそうな微笑みが目に焼き付いていて消えない。
あんな顔を見せられたら、その幸せが長く続くように祈ってあげたくなる。
(でも少し辛いかな……)
四人がバスに乗り込むのをぼんやりと眺めながら泣きそうになった。
「あ、兄貴!!まだこんなところにいたのかよ!!」
ハッとして顔を商店街の方に向けると裕太が駆け寄ってくるところだった。
「何やってるんだよ!!隣にいると思って話しかけたらいないからすごい恥ずかしかったんだぞ!!」
「あははは。ごめん」
顔を真っ赤にして怒る裕太が可愛くてつい笑ってしまう。
「何かあったのか?兄貴、すごい変な顔してるぜ」
「え?……何でもないよ。早く買い物して帰らないと姉さんが怒るね」
うまく笑えたつもりだったが弟の目はごまかせなかったようだ。
僕は表情を取り繕って裕太の手を引いた。
「ちょ、兄貴!?いい年して手つなぐなよ!!」
裕太が恥ずかしそうに喚くのを聞き流し、商店街へと足を向けた。
*終わり*
+あとがき+
果たして不二夢と呼んでいいものか…。