君が居る場所



+25.密かな誓い+



ずっと一緒にいるんだと、信じて疑わなかった。
まさか、アイツが俺から離れていくとは思わなかった。





―――あの日までは・・・





雪の降る日、アイツは俺の前から姿を消した。






早朝に呼び出された俺は、眠い目を擦りながらもアイツに会いに行った。
待ち合わせ場所に一人で立っていたアイツは、見慣れた黒い死覇装や和服ではなく、現世で見かけるような洋服を着ていて・・・。



嫌な予感がした。



?」


不安を見せないように気を付けて、その名を呼ぶ。
はゆっくりとこちらに顔を向けた。


「おはよ、冬獅郎。」


いつもと変わらないの笑顔が、何故か泣きそうに見えた。
いや、泣きそうなのは俺の方かもしれない。


「・・・・本当に、行くのか?」






* * * * * * * * * *






―――数日前、突然告げられた言葉があった。




『・・・・俺、死神辞めることにした。』


いつものように、は人目を忍んで十番隊隊舎にフラッとやって来た。
そして、いつものように茶を飲んで、いつものように菓子を食っていた。
だけど、ただ一つ違ったのは、の言葉だった。


『は?何を言ってるんだ?』


すぐには受け入れられなかった。
動揺を隠して茶をすする。
だけど、湯呑みを持つ手が微かに震えてしまう。


『まあ、とっくに死神のつもりなんかなかったけど。現世に行こうかと思ってさ。もう隊長でも何でもねぇし、ここにいてもやること無さすぎてつまんねぇんだよな。あ、冬獅郎と過ごすのがつまんねぇわけじゃないからな。誤解しないでくれよ。』


は菓子の包み紙を折りながらそう言った。


『いつ行くかはまだ決めてねぇけど・・・・・決まったら、すぐに教えるから、見送りに来いよな!あ、他のやつらには内緒な。ゴチャゴチャうるさいから。』


はそう言うと、包み紙で折った不恰好な鶴を俺の机に置いて立ち上がり、さっさと部屋から出ていった。






* * * * * * * * * *






「あぁ。」


が笑顔で頷いた。


「・・・・もう、帰ってこないのか?」


顔を見る度に幾度も投げ掛けてきた問い。


「あぁ。」


その度には苦笑して頷くだけ。


「そうか・・・」


それ以上、何も言えなくなった。
答えは変わらないとわかっているから、これ以上しつこくして嫌われたくないから、俺はもう何も言わない。


「またな。」


はそう言って、穿界門の中へと消えていった。
一度も俺に触れること無く。


「・・・・・・・ッ!!」


思わず名前を叫んでも、非情にも門は閉じ、消えていく。
はもう、帰ってこない。



と過ごした日々が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。



いつかの俺の告白にアイツは何も答えてくれなかった。
だけど、あの日以来、いつも空を見上げているに何故かと問いかけたことがあった。
しかし、いつも答えをはぐらかされてしまう。
本当の答えは未だにわからない。


だけど・・・


もしかしたら、と思うことがあった。
出逢ったばかりの頃のの言葉。


『お前の瞳って、綺麗な色してるんだな。』


そう言って笑ったの方が綺麗だと思った。
そんなこと、恥ずかしくて言えなかったけれど。
それからしばらく経って、そばにいることが増えてから、が空を見ることが好きなのだと知った。



・・・・・もしかしたら、は空の色と、俺の瞳の色を重ねて見ていたのかもしれない。



そう考えたら、少し報われたような気がした。
もしも、いつか帰ってきたら、もう一度聞いてみようと密かに誓った。





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+memo+

ようするにプロローグの場面です。
あまり変わらない?