真夏の夜の夢
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僕は少し広めのベンチの上に足を伸ばす体勢で座らされた。
直接氷を当てるわけにはいかないからと、足首にタオルを巻かれ、その上から氷の入った袋を当てられた。
しばらくこの状態で安静にしていろと跡部に言われたが、もうすぐこの夏祭りのメインイベントである花火が上がる。
出店の並んでいるこの場所から花火を見ることは出来ないから、花火の打ち上げ会場の近くまで移動しなければならない。
岳人もジローも花火をすごく楽しみにしていたし、口には出していないが宍戸も長太郎も樺地も日吉も滝も花火を楽しみにしているはずだ。
あの跡部でさえも、この夏祭り会場に来るくらいだから、花火を楽しみにしているのだろう。
「・・・・・僕、ここで待ってるから、みんな花火を見に行ってよ」
九人の目が一斉に僕に向く。
「えー!!ダメだよ!!カワEーから変なおじさんに連れてかれちゃうよ!!」
「・・・・何言ってんの、ジロー。僕、別に可愛くないし、幼稚園や小学生の子どもじゃないんだから、知らない人にはついていかないよ」
しかも、おじさんって・・・・
呆れてしまう。
「・・・・ほな、俺が残るわ」
今まで黙っていた忍足がそう言うと、みんなの目が見開かれた。
かく言う僕も信じられない気持ちで忍足を見た。
僕のことを嫌っているはずの忍足が僕と一緒に残ると言うなんて思いもしなかった。
「俺、別に花火見たいわけやあらへんし」
「じゃあ、俺も残る。花火見に行ってもがいないんじゃ意味無ぇし」
岳人がそう言って、僕の足元の方の空いているスペースへ腰を下ろした。
岳人の気持ちが痛いくらいに伝わってくる。
だけど僕は、岳人の気持ちにはこたえられない。
「ダメだよ、岳人。せっかく来たのに花火見ないなんてもったいない。楽しみにしてたじゃないか」
「それはも同じだろ。お前だって花火楽しみだって言ってたじゃん」
「・・・じゃあさ、俺たちは先に行って、見やすくてが楽に座れる場所を取っておいて、と忍足には後からゆっくり来てもらうっていうのはどうかな?花火は五分や十分で終わるわけじゃないんだし、それならも一緒に見られるだろう?」
滝の提案にみんなが一様に納得して頷く。
岳人だけは少し納得がいかないような顔をしている。
「俺がと一緒に行く」
「岳人がを一人で支えて歩けるわけないだろ。の方が少しだけ大きいんだから」
滝が岳人の気にしていることをサラリと言う。
岳人はムッとした表情で滝を睨み付けた。
「岳人、良い席取っておいてよ。すぐに行くから」
僕がお願いすると、岳人は渋々頷いて立ち上がった。
「絶対すぐ来いよ!!」
怒り心頭といった様子で、岳人は歩き始めた。
その後ろをジローたちが追いかけるようにして付いていった。
「・・・・・・こっちは気にせずゆっくりしてろ。アイツは俺らで何とかする」
跡部が僕のそばに寄ってきて、コッソリ耳打ちをした。
「え・・・・?」
「まさか、気づかれてねぇなんて思ってんじゃねぇだろうな?気づいてねぇのなんて向日と忍足くらいだ」
跡部が意地悪い笑みを浮かべる。
「最悪、来なかったとしても、誰も怒らねぇよ。わざわざお膳立てしてやったんだ、悔いが残らねぇようにな」
跡部はそう言うと、ヒラリと身を翻して去っていった。
「・・・・・・・・・・・・・」
いつから気づかれていたのだろうか。
みんな気づいているような素振りを見せなかったのに。
「・・・・?どないしたん?」
急に忍足に呼ばれて、僕は思い切り飛び上がった。
「何や。そないビックリするようなことしてへんやろ」
忍足がわずかに眉を寄せる。
「ご、ごめん・・・・ちょっとぼんやりしてた」
「・・・・・・・跡部、何て言うとったん?」
「え?」
「今、何か言われとったやろ」
「あ、あぁ・・・うん。ゆっくり来れば良いというようなことを・・・・」
「そうか」
忍足は頷いて、僕の隣に立った。
少し指を伸ばせば届く距離に忍足がいるのが信じられなくて、僕は両手を膝の上で握り締めた。
「・・・・・お・・・・忍足も座ったら?」
声が震えないように意識しながら告げると、忍足は、そうやな、と呟いて、空いているスペースに腰を下ろした。
「・・・・・喉渇いたな・・・は?」
忍足がポツリと呟くように言った。
「え?あ・・・・僕も、少し・・・」
「ほな、何か買って来るわ。は何がえぇ?」
「あ・・・えっと・・・・何でも良い、よ・・・」
「わかった。すぐ戻る」
忍足はスクッと立ち上がると、出店の方へと走っていく。
出店の近くまで行き、忍足は店を探すように辺りを見渡した。
と、そこへ年上っぽい女の人たちが現れて、忍足に声をかけている。
「・・・・・・・やっぱりモテるんだな・・・・」
女の人に囲まれている忍足を見たくなくて目をそらした。
「こんなところで何やってんのー?」
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