真夏の夜の夢




+3+



「こんなところで何やってんのー?」


見知らぬ声が聞こえたと同時に四人の男たちに囲まれた。
見るからにガラの悪そうな人たちで、僕は言葉を失った。


「あれぇ?ケガしてんの?俺が負ぶってやろーか」


そのうちの一人が僕の足を見てそう言いながら僕の腕を掴んだ。


「や・・・・やめてください・・・・」


振りほどこうにも相手の力が強くて動かすこともままならない。
空いているほうの手でその手を解こうとするが、別の人に掴まれてしまった。


「んーちょっと失礼。・・・・・やっぱ男だったか。お前の勝ちだな」


一人が僕の浴衣の中へ手を入れ、胸を触った。
その言葉を聞いた一人が、


「だろ?とゆーことで、最初は俺からね」


と言って、下品な笑みを浮かべた。


「はいはい。ここじゃちょっとマズイから、奥に行こうぜ」


俺の浴衣に手を入れていた男がベンチの裏の林を顎で示した。
そして、ようやく自分の置かれている状況を理解した僕は、全身の血の気が引いた。
知らず知らずのうちに体が震える。


「良い子にしてろよー?そうすれば痛くしねぇからさ」


腕を掴んでいた一人が鼻歌でも歌うようにそう言った。


「や・・・・・やだ・・・・・」


僕はもう一度腕に力を込めた。
だけど、やっぱりびくともしない。
悔しくて、怖くて、視界がぼやける。


「あれれ?泣いちゃったよ」


「お前の顔が怖ぇーんじゃねぇの?ギャハハハッ」


男たちはそう言い合って笑った。
何が可笑しいんだ、可笑しいことなんて何も無いだろ!!
そう言ってやりたいのに、恐怖で唇が震えるだけで一つも音にならない。
ボロボロこぼれる涙が頬を濡らす。


「まー良いじゃん。早く行こうぜ」


男はそう言って僕の体を抱え上げようと背中に手を添えた。


(忍足・・・・・早く・・・早く戻ってきて・・・・)


痛いくらいに唇を噛み締めて、必死で祈る。


(助けて・・・・・忍足・・・っ)


唇が切れたのか、口の中に鉄の味が広がった。
男の手に力が入る。


「お前ら何しとんねん!?そいつに触んな!!」


ガツッと何かがぶつかる音がしたと同時に怒鳴り声が聞こえた。


「ってぇー・・・・・何だテメェ!?」


男が僕から手を離して振り返ると、そこには珍しく怒りに満ちた忍足がラムネのガラス瓶を持って立っていた。
まさかそれで殴ったんじゃ・・・・と呆然とした。


「聞こえんかったんか?そいつに触んな言うとんじゃボケ!!とっとと離れんかい!!」


「はぁ?ふざけんな!!」


男の一人が忍足に殴りかかる。
忍足はその拳をヒラリと避け、手刀で叩き落した。
そして、持っていたラムネ瓶を振り上げる。


「忍足やめて!!!」


咄嗟に僕が叫ぶと、忍足はピタリと動きを止めた。
ここで傷害沙汰を起こしたら、全国大会に出られなくなってしまう。
せっかく特別枠で出られるようになったのに、みんなで一所懸命頑張ってきたのに、それが無駄になるようなことはしてほしくない。
ましてや僕の所為で、忍足の夢が壊れてしまうのは嫌だった。


「ダメだよ、忍足・・・」


・・・・・」


忍足がラムネ瓶を下ろすと、男たちが再び忍足に向かっていく。
すると、


「君たち!!!何をしているんだ!!」


忍足の向こう側から怒鳴り声が聞こえた。


「ヤベッ、サツだ!!」


「逃げろ!!」


制服警官の姿を見た瞬間、男たちが林の奥へと逃げていった。
警官が男たちの後を追う。


、大丈夫か?血ィ出とる・・・・殴られたんか?」


唇に滲んだ血を見て、忍足の顔がいっそう険しくなった。


「違う・・・・これは自分で噛んだから・・・・」


「・・・・・一人にしてすまんかった・・・・・・無事で良かった・・・」


忍足はそう言うと、僕の体を抱きしめた。


「え・・・・ちょ、忍足・・・?」


心臓が大きく跳ねる。


「・・・・・・コホン。お取り込み中のところ申し訳ないんやけどー、ちょっとえぇですか?」


不意に聞こえた声に驚いて、僕は思い切り忍足を突き飛ばしてしまった。
その反動で忍足は大きくよろけた。


「う、あ、ごめん、忍足!!大丈夫?」


転ばすに踏みとどまった忍足は、背後を睨み付けるように振り返った。


「何やねん?」


そこには薄いピンク色の浴衣を着た女の人と黒い浴衣を着た女の人が立っていた。
僕はすぐにその人たちが先ほど忍足に声をかけていた女の人たちだと気づいた。



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