真夏の夜の夢
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花火会場に向かう途中、ラムネを買い直した。
くっついて歩く僕たちに、たくさんの好奇心の目が向く。
その中には羨ましそうに見る女の子たちの視線もあった。
忍足はまったく気にしていない様子で、平然としている。
僕は忍足とくっついているというだけで落ち着かないというのに。
先ほど見た、取り乱した忍足は幻だったんじゃないかと思うくらいだった。
「・・・・・・・あ、金魚すくい・・・」
ふと視界の端に金魚すくいの屋台が映った。
「金魚好きなんか?」
「え?あ、うん。小さい頃はよくやってたんだけど、僕すっごく下手で、何回やってもすくえなくて、いつもおまけでもらってばかりだったんだ」
「へぇ・・・・・」
「忍足?」
忍足は金魚すくいの屋台に向かって歩き始めた。
僕はわけがわからなかったが、ついていくしかなかった。
「おっちゃん、一回いくら?」
「300円だ」
忍足が財布から小銭を出して屋台のおじさんに手渡した。
器とポイを受け取ると、忍足は僕から離れて水槽の前に屈んだ。
「、どの金魚がえぇ?」
「え・・・・・・あ・・・・赤くて、元気なやつが・・・・」
急に下の名前で呼ばれて、動揺してしまった。
「わかった」
忍足は頷くと、真剣な表情で水槽を見つめた。
そして、あっという間に四匹の金魚をすくい上げた。
「・・・・・すごい、忍足・・・・」
二匹ずつに分けて袋に入れてもらい、金魚すくいの屋台を後にした。
赤い和金が二匹と赤と白の斑模様のリュウキンが二匹いて、それぞれ一匹ずつ袋に入っていた。
「どっちがえぇ?っても、ほとんど同じやけど」
忍足が二つの袋を目の高さに掲げてそう言った。
「じゃあ、こっちの袋にする。」
忍足の右手にあった袋を選び、受け取った。
「ありがとう、忍足」
「どういたしまして。ほな、ちょっと急ごか」
「うん」
僕は何だかくすぐったい気持ちになった。
忍足が僕のために金魚をすくってくれるなんて、夢みたいな話だ。
あまりにも幸せすぎて、明日になったらすべて醒めてしまうのではないかと思った。
もし、これが夢だったとしても、今の僕はそれでも良いと思えた。
「お、もうすぐやな」
少し歩くと、林にたどり着き、忍足がそう言った。
この林を抜けた先に花火会場があるようだ。
花火の音がさっきより近くなって、木々の隙間に花火が見えた。
――――ドーン・・・・
そして、林を抜けると同時に大きな花火が上がった。
「キレー・・・・・」
目の前に広がる光の花たちに僕は思わず感嘆の声を上げた。
「・・・・・の方がキレイやで」
耳元でそう聞こえたと思ったら、頬を何かが掠めた。
「・・・・・・え?」
数秒後、頬にキスをされたのだと気づき、顔が熱くなった。
「・・・・あ!!!!侑士!!遅いぞ!!」
問いただす前に岳人が現れ、忍足は何食わぬ顔で岳人に謝っている。
「〜!!大丈夫だった!?忍足に何にもされてない!?」
岳人の後ろから滝とジローもやってきた。
「ちょお待て、どういうことや、ジロー。俺が何するっちゅーんじゃ」
忍足がムッとした表情でジローを見た。
「変なおじさんより忍足の方が危ないんじゃない?って呟いたら、ジローが怒っちゃって・・・」
「滝・・・・・お前は俺が嫌いなんか?」
忍足はガックリと肩を落とした。
「娘を嫁に出す父親の気分だよ」
「はぁ・・・?何じゃそら」
忍足が不思議そうに滝を見た。
僕はそんな忍足が可笑しくてつい吹き出してしまった。
「何笑っとんの、」
さっきは“”と下の名前で呼んでいたのに、いつの間にか苗字に戻っていた。
「別に〜」
「あれ?、その金魚どうしたの?」
滝がそう言って僕の手の金魚の袋を示した。
「忍足が取ってくれたんだよ。忍足すごいんだよ、あっという間に四匹すくっちゃたんだ。あと一匹いけるかなと思ったら、ポイの紙が完全に破れちゃって・・・あれは惜しかったなぁ・・・」
「へぇ〜、良かったね。、金魚好きだもんね」
「・・・・・金魚くらい俺だって取ってやったのに・・・・」
岳人が隣で拗ねたようにそう呟いた。
その姿を見て、僕は当面の問題を思い出した。
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