真夏の夜の夢
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「そういや、跡部たちはどこにおるん?早く行かんと怒っとるんやないんか?」
岳人の呟きを聞いたのか聞いていないのか、忍足は飄々とした様子でそう言った。
「そうだね。も立ちっ放しじゃ辛いだろうし。行こう。こっちだよ」
滝の案内で僕たちは跡部たちの元へ向かった。
跡部たちがいたのは、入り口から程近いところにある膝くらいの高さの花壇の前だった。
「はここに座って。そういえば、何か食べた?」
滝に示された花壇の縁に腰を下ろす。
「ううん、何も。ラムネ飲んだくらいだよ」
「そうなんだ。何か食べる?冷めちゃったけど、たこ焼きと焼きそばと・・・・イカ焼きにお好み焼きもあるよ。岳人とジローが色々たくさん買いすぎて余ってるんだ。他に欲しいものがあったら買ってくるけど・・・」
滝が花壇の縁に重ねてあったパックを一つずつ手に取って確認しながら教えてくれた。
「ううん、ありがとう。ここにあるのだけで充分だよ。忍足は?」
「俺も、これでえぇよ」
「そう?じゃあ、はい、割り箸」
「ありがとう。いただきます」
「いただきます」
滝から割り箸を受け取り、両手を合わせると、忍足も手を合わせた。
僕が焼きそばを、忍足がお好み焼きをそれぞれ食べ始める。
程なくして僕も忍足も食べ終わり、次のパックを手に取った。
「あれ?これ、焼き鳥?こんなのも売ってたんだね」
「つくねと皮とネギマとレバーが一本ずつか・・・・好きなの選んでえぇよ」
「え。忍足が選んで良いよ」
「・・・・一緒に食べれば良いんじゃねぇのか?」
譲り合う僕たちを見て、跡部が苛立たしげに呟いた。
「あ、そうか。それもそうだね」
「まぁ・・・・そうやな」
跡部の言葉に納得して頷くと、忍足も頷いた。
「あ、でも、僕レバーは苦手だから、忍足が食べてくれる?」
「あぁ、えぇよ。せやったら、どれか好きなやつを一本、が食べればえぇよ」
「ホント?じゃあ・・・・・つくねをもらって良い?」
「えぇよ」
「ありがとう」
忍足がレバーを食べている間に、僕はつくねを食べた。
「、タレがついとるで」
忍足がそう言って僕の口の端を指で拭った。
「あ、ありがとう・・・・」
何だか気恥ずかしくて、忍足の顔が見れない。
「はぁ・・・・何だか俺たちお邪魔みたいだから、向こうに行ってるよ」
急に滝がそう言ったため、僕は驚いて顔を上げた。
忍足も同じように驚いて滝のほうを見ていた。
「宍戸と長太郎はとっくに離れちゃったし、俺たちがここにいてもどうしようもないし・・・・じゃあ、花火が終わる頃に戻ってくるよ」
滝は嫌がるジローを引きずって人波の向こうに消えていった。
跡部が無言で樺地を促して離れていき、気難しそうな顔をした日吉と傷ついたような顔をした岳人が残った。
岳人が何か言いたげに口を開くが、音にならず泣きそうな顔をして走り去っていった。
「日吉・・・・・」
僕が日吉の方を見ると、日吉は黙って頷いて、
「わかってますよ。向日さんのことは俺が何とかします」
と言ってくれた。
全国大会への出場が決まって、岳人と日吉がダブルスを組む予定だと聞いた。
僕のことが原因で思うようなテニスが出来なかったらと思うと、どんなに謝っても許されるようなことではないような気がする。
そんな僕の気持ちを日吉はわかってくれたようで、岳人が走っていった方へと駆けていった。
その姿を見て、僕は肩の荷が下りたような気持ちになった。
「・・・・・岳人はが好きやったんか?」
「・・・・・・うん。ずっと、知ってたんだけど・・・・・自分の気持ちだけでいっぱいいっぱいで、全然思いやってやれなくて・・・・・いつまでも放っておいたら岳人が傷つくのわかってたのに・・・・はっきり言うのが怖くて・・・・自分の気持ちをはっきり言ってしまったら、忍足と岳人の絆を壊してしまいそうで怖かった」
「俺と岳人の絆?」
「うん・・・・ダブルスのパートナーとして、とても信頼し合っていて、お互いのこと何でも分かり合ってるような気がした。僕の一言でそれが壊れるかもしれないと思ったら、言えなかった。岳人は絶対怒ると思ったんだ。忍足のこと怒って、メチャクチャになるんじゃないかって・・・・」
言いながら、声が震えているのがわかる。
「・・・・確かに、そうかもしれんな。さすが、親友なだけあって、岳人のことようわかっとるな」
「そりゃあね。幼稚舎のときからずっと一緒だもん。でも、岳人は僕のことあまり知らないんじゃないかな」
「そうなんか?そうは見えんけど・・・・」
「恋は盲目ってやつだよ。見えているようで見えていないんだ。後から知り合った滝のほうがよっぽど僕のこと知ってるよ」
僕がそう言うと、忍足は意外そうな顔をした。
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