悠久の時





このまま、永遠に時間が止まれば良いのに・・・



そう願ったところで叶うはずもなく、刻一刻と時間は過ぎていく・・・



あと、どれくらいここに居れるのかな・・・?



誰も教えてはくれないけれど。






僕が入院している病院から少し歩いたところに公園がある。
その公園に行ってみたいと思って、担当のお医者様に言ったら、許可をくれた。
2つの条件付きだったけれど。
その条件とは、“30分以内に帰ってくること”と“1日1回だけ”だった。
だから、僕はそれを絶対に守ると約束したんだ。




* * * * * * * * * *




バサバサバサッ


春の暖かな日差しの中、僕は木に登って、下を見下ろしていた。
すると、手が滑ってしまった。


「うわっ!?あぶな・・・・・っ!!!!」


「ZZZZZZZ・・・ふがっ!?」


下で寝ていた、金色のふわふわの髪をしている男の子の上に落ちてしまった。


「だれ・・・・?」


彼は寝ぼけ眼で僕を見た。


「ごめんね、まさか落ちるとは思ってなくて・・・」


僕はすぐに彼の上から降りた。


「あ、もうこんな時間!!早く戻らないと・・・。あ、本当にごめんね。」


公園の時計を見て、僕は慌てて立ち上がった。
本当はいけないんだけれど、気分がいいから走ることにした。


「待って!!俺、ジローって言うんだ!!芥川慈郎!!」


不意に呼び止められて、彼は名前を教えてくれた。


「僕の名前は、だよ!!また会えると良いね!!」


僕は立ち止まって、自分の名前を告げた。
そして、すぐに病院に戻った。




* * * * * * * * * *




あれから1週間、僕は熱を出して寝込んでしまった。


お医者様が、やっぱり散歩はやめたほうが良いと言っていたけれど、僕は絶対にまたあの公園に行くと決めていたから、次は気をつけると約束して、また行くことを許してもらった。
ジローにまた会いたかったから・・・



1週間ぶりに公園に行くと、ジローがまたあの木の下で眠っていた。
僕はジローの隣に座って、ジローの寝顔を見つめた。
ジローの髪に葉っぱがついていたから、手を伸ばした。
すると、ジローの目が開いた。


「・・・・ぁ、ごめんね。起こしちゃった?」


・・・?」


ジローは自分の頭の上にある僕の手を気にしていた。。


「・・・・・あ、これ?頭に葉っぱついてたから・・・」


僕はジローの頭から葉っぱを取って、ジローに見せた。


「・・・・・・・・ジロー?」


ボーっと葉っぱを見ていたと思ったら、ジローに腕を掴まれた。
そして、優しく抱きしめられた。


「・・・・・どうしたの?」


僕はビックリしたけれど、抵抗はしなかった。
ジローにこうされることを望んでいたのかもしれない・・・。


「・・・・俺ね、のこと、好きになっちゃったんだ・・・。」


表情はわからなかったけれど、真剣な声でそう言われた。


「・・・・・・・・ありがとう。僕もジローのこと好きだよ。」


僕はとても嬉しくて、だけど、自分がジローに相応しいとは思えなくて、何度も何度も瞬きをした。
ジローの真剣な告白を、断りたくない。その一心で、返事をした。





それからすぐに季節が変わって、夏になった。
僕の体は暑さのせいで徐々に弱っていった。
雨が降っていたある日、ジローが僕の病室に来た。
その日は熱が出てしまって、公園に行くことができなかった。
僕のことを心配して、ジローは来てくれたらしい。
少し前に渡した住所のメモを見て。
まさか、来るとは思っていなかったから、普通に病院の住所を書いて渡した。
ここは僕の第二の家とも言えるから。


「・・・・・・・・・ジロー・・・・・?」 ノックのすぐ後に病室のドアが開いた。
入ってきたのはジローだった。
僕はゆっくりと身体を起こした。


「待ち合わせ、行けなくてごめんね。熱が出ちゃって・・・。」


僕は心配させないように笑って言った。


「・・・・・なんで、だまってたの?」


「え?」


「入院してたなんて、知らなかった・・・」


ジローが泣きそうな顔でそう言った。


「なんで、言ってくれないの?今までずっと、病院から出てきてたの?」


「・・・・・・・・ごめん・・・ごめんね、ジロー。」


僕はもうただただ謝るしかできなかった。
ジローを傷つけてしまったのだから・・・


「・・・・・・・俺、明日から毎日ここに来ても良い?」


ジローがそう言った。だから僕は、


「ありがとう。」


と言った。


それから毎日、ジローは僕に会いに来てくれた。



僕はとても楽しくて、ジローに会えるこの時間が嬉しくて、ずっとこのまま過ごしたいと思った。





だけど、その楽しい日々もそう長くは続かなかった・・・



僕の体調は急速に悪化していった。
そして、ついに限界が近づいた・・・


「ジ、ロー・・・・・ジロー・・・・に、あ・・・いた、い・・・・」


僕はまったく力の入らない手で、看護婦さんの服を掴んだ。


「ジローくんね?待ってて、今呼んでくるから・・・」


お医者様が病室を出て、そのすぐ後にジローが飛び込んできた。
ジローと入れ違いに、看護婦さんたち皆が出て行った。


?大丈夫?苦しいの?」


ジローは僕のすぐそばに来てくれた。だから、


「ジ・・・ロ・・・・・僕を、抱き・・・しめて・・・・」


僕は切れ切れにそう言った。


「うん・・・・」


ジローは泣きそうな顔で、僕を抱きしめてくれた。


「ジロー・・・・・約束、して・・・ほしい・・・・・僕、が死ん、でも・・・・泣かな・・・い、こと、を・・・・」


「うん、わかった。約束する・・・・でも、死んじゃ、ヤダ・・・・・・」


ジローが涙いっぱいの目で言った。
だけど、僕はもう駄目だということを自分でわかってしまった。


ジローと過ごした時間を何度も何度も繰り返し思い出した。


「ジロ・・・・・・あなた、に、出逢え・・・て・・・・良かった・・・・・・・」


僕はもう何も見ることはできなくなった。


と初めて出逢った瞬間に、俺はね・・・君に恋したんだ。・・・・一目惚れだったんだよ。」


遠ざかる意識の中、ジローの声がした。





永遠なんて、存在しない。だけど、もし・・・・永遠があるのなら、今度はずっと君のそばに居たい・・・




*おわり*




+あとがき+


移転前に設定したキリリクの777代理の話の主人公sideの話です。