記憶のカケラ
+6+
「岳人っ!!!」
女の手を岳人から引き剥がし、岳人の体を揺さぶった。
「岳人!しっかりしい!!」
岳人の口元に手を当て、息を確認する。
どれくらいの間、首を絞められていたのか・・・・・岳人は息をしていなかった。
岳人を仰向けに寝かせ、心臓の音を確認する。
「岳人っ・・・・」
気道の確保をし、鼻をつまんで、思い切り息を吸い込み、岳人に口付け、人工呼吸をした。
何度も何度も繰り返し、息を吹き込む。
『・・・・なんで、そんなやつを助けるのよ!?』
すぐ近くで知らない女が叫んでいる声が聞こえる。
俺はそれに構わず、早く岳人が息を吹き返してくれることを祈りながら、人工呼吸を続けた。
「っ・・・・うっ・・・」
その時、岳人が呻いた。
「岳人!!大丈夫か!?」
俺は手を離し、顔を覗き込んだ。
「うっ・・・ゲホッ・・・ゲホッゲホッ」
岳人は顔を横に向け、咳き込み、浅い呼吸を繰り返した。
意識はまだ戻っていないようだったけれど、呼吸が出来るようになって、少し安心した。
『どうして・・・どうしてなのよぉ・・・・』
女がすすり泣いている。
岳人から女の方へ視線を向けて、女が生きた人間でないことに気づいた。
「・・・アンタ、誰や?岳人に何てことしよったん。殺す気ぃやったんか!?」
段々と苛立ちが沸き起こり、声を荒げた。
『どうして・・・・私だけを、見てくれないのよ・・・』
「・・・・・・・ゆ・・・し・・・?」
女の声と重なって、岳人のか細い声が聞こえた。
「岳人!気ぃついたんか?」
ぼんやりと視線を巡らせている岳人が、ゆっくりと体を起こした。
「・・・・俺の、こと・・・わかるの?」
泣きそうな声で岳人はそう言った。
「当たり前やないか。何で、そないなこと言うねん?」
俺がそう言うと、岳人が俺に抱きついてきた。
「ゆうし・・・っ」
岳人は静かに涙を零した。
『・・・・・・死ねばいいのよ。あんたたちなんか、死んでしまえばいいのよ!!!』
女がそう叫んだ瞬間、どこからともなく男が姿を現した。
『もう、それくらいにするんだ。』
女の隣に男は立った。
『・・・・・どうして・・・?』
女は目を見開き、男の顔を凝視していた。
「アンタ、誰や?」
『・・・・君が抱いているその彼が俺のことを知っているはずだよ。』
「・・・岳人が?」
その声で、岳人がゆっくりと顔を上げ、男の顔を見た。
「・・・・今朝の・・・祠で・・・」
ポツリと言う。
『そう。あの時会ったね。そして、君の夢の中でも会ったよ。もっとも、君はあれが俺だと認識できていなかったようだったけれど。』
男が頷いた。
「・・・・どういうことや?」
岳人がゆっくりと説明をしてくれた。
彼は今朝、ここの敷地内になる湖の祠で会った、この別荘の使用人・・・のはずだ、と。
そして、彼の言う夢が、つい先ほど見たばかりのものだということも。
「侑士、それ・・・。」
説明の後に、岳人が俺の手の中にあるものを指差し、
「その、指輪・・・あの人のだ・・・」
と言った。
あの人、と言って示したのは、今、目の前にいる女だった。
『・・・・・私の、指輪・・・』
女が指輪を見てポツリと言った。
『あなたがあの時、盗っていった指輪・・・』
女は男を見て言った。
『君に、もう一度渡すために、持っていたんだ。』
男が俺の手から指輪を取った。
『俺は、あの日以来、ずっと、君を捨てたことを後悔した。他の女と結婚したくて、君を捨てたのに・・・君がいなくなって初めて、君の存在が俺にとってどれ程大きなものだったのかを思い知らされたよ。・・・・俺は、君のことを誰よりも愛しているんだ。もう一度、やり直そう。今度は、もっと幸せな世界で・・・』
男がそう言って、女の指に指輪をはめた。
『・・・・・・・・・はい。』
女は涙を流して頷いた。
『・・・・君たちには本当に迷惑を掛けたね。・・・・君たちは、俺たちのように間違えないで欲しい。』
男が女の手を取り、俺たちを見てそう言った。
「幸せに、なってください。」
俺がそう言うと、
『ありがとう・・・君たちも、幸せにね。』
二人はそう言って幸せそうな笑顔で消えていった。
「消えた・・・?」
岳人がぼんやりと呟いた。
「あぁ・・・消えた。」
誰の姿もない空間から、岳人へと視線を移す。
「・・・・・岳人、痛いか?」
岳人の首筋には、赤い指の痕がついていた。
その痕をそっと撫でる。
「・・・・ヘーキ。」
岳人はくすぐったそうに身をよじった。
「・・・侑士。俺のこと、好き?」
コテンと俺の胸に頭を乗せ、岳人がそう聞いてきた。
「もちろん、好きやで。」
俺はそう答えた。
「俺も・・・侑士が好き。」
岳人がそう言って俺を見た。
そして、どちらからともなくキスをした。
* * * * * * * * * *
あれから、部屋に入ってきた滝に、俺たちがキスしとるとこを目撃され、何故か泣きながら喜ばれた。
その後、俺の身に起こっていたことを教えられた。
「・・・・ここか?」
今、俺と岳人は湖のそばにある祠の前にいる。
「うん、そう。」
岳人が頷き、祠の前で屈んだ。
手に持っていた花束の花を一輪抜き取って祠に供え、手を合わせた。
俺も岳人の隣で屈み、手を合わせた。
「・・・・今頃、あの二人も幸せそうにしとるやろな。」
立ち上がり、そう言うと、
「そうだな。きっと・・・」
岳人は頷いて立ち上がった。
そして、俺たちは湖のほとりに向かった。
「・・・ほな、せーのでやるで。」
「うん。」
「「せーの」」
俺たちは同時に、抱えていた花束を湖に放った。
あの二人が、もう二度と同じ過ちを繰り返さないことを祈って・・・
俺たちも負けないくらい幸せになろうと誓った。
*end*
←
+あとがき+
あんまり上手くまとまっていないような気がしますが、何とか、終わらせることが出来ました。
最終話はすべて忍足視点にしてみましたが、難しいですね。
中途半端に関西弁だし・・・・読みにくかったらすみません;