Trial of Luck
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「俺ねー、神尾くん好きなんだー。」
跡部くんと神尾くんがじゃれ合いながら歩いている後ろ姿を遠目に見ながら、ポロッと口をついて出た言葉。
隣を歩く伊武くんが虚を突かれたように目を見開き、すぐにいつもの無表情に戻った。
「ふーん・・・アレ見ててもそんなことが言えるんだ。物好きですね。」
興味なさげにぼやく伊武くんを見て、あぁ失敗したな、と思った。
伊武くんは俺に興味がないんだ、と。
「ハハッ。そーだね。」
すぐに嘘だと言えば良いのに、なかなか言えなくて、気がつけば、いつも別れる交差点まで来ていた。
「じゃあ、伊武くんまたね。」
用も無いのに・・・・いや、俺にはあるけど・・・伊武くん的には用が無いから引き留めることができず、いつものように笑顔で手を振った。
「さようなら。」
伊武くんは俺の顔も見ずにそう言って、スタスタ歩いていってしまった。
俺はしばらくその場から動かず、伊武くんが歩いていった方をじっと見つめた。
「脈無し、かぁ・・・」
不意に、さっき自分が放った言葉を思い出した。
何故、あんなことを言ってしまったのか。
本心ではないのに。
神尾くんが好きだなんて思ったこともないのに。
そう言ったら、伊武くんがどう反応するのか気になったから。
少しは嫉妬してくれるかなぁ、なんて思ってしまったから。
止めておけば良かったと、言わなければ良かったと、悔やむ思いばかりが募る。
「バカなことしたなぁ・・・」
溜め息を一つ吐き出して、伊武くんが行った方とは正反対の方へ歩いた。
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