Trial of Luck
-3-
「あ〜っ!居た!!」
どれくらいの時間が経ったのか、聞き覚えのある叫び声が聞こえて、顔を上げた。
俺たちの席から少し離れた位置に神尾くんが居た。
「・・・やっと来たか。」
駆け寄ってくる神尾くんを見て、跡部くんがボソリと呟いた。
「もー、バカ跡部!何でもっとわかりやすい席に居ねぇんだよ!」
神尾くんは俺たちの前に来ると、すぐに跡部くんの隣の席に座った。
そして・・・
「深司!早く来いよ!」
来た方向を見て、そう言った神尾くん。
俺は心臓が止まるかと思った。
神尾くんの視線の先に目を向けると、不機嫌そうな伊武くんがゆっくりと歩いてきていた。
「・・・・・・大きな声で呼ばないでよ。ただでさえ、そこは目立つんだから・・・」
ボソボソとぼやきながら、伊武くんは近づいてきた。
席の前まで来ると、伊武くんはチラッと俺の顔を見て、だけど、すぐに視線をそらして、俺の隣の空いている席に腰を下ろした。
触れるか触れないかの位置に伊武くんが居ることに緊張しつつ、伊武くんの横顔を見た。
「で、跡部、何の用だよ?深司と一緒に来いって、どういうこと?」
「え?」
神尾くんの言葉に真っ先に反応したのは俺。
神尾君たちを跡部くんが呼び出した・・・・その理由を聞きたいのは俺の方だ。
「・・・・・このバカがウゼェから、はっきりさせてやろうかと思ったんだよ。」
・・・・・・・・・・・・・・ナルホド。
俺の為に一肌脱いでくれたらしい。
「え?千石さん?」
俺は一気に脱力して、テーブルに突っ伏した。
そんな俺を神尾くんが心配そうに覗き込む。
「・・・・・・俺が呼ばれた理由がわからないんだけど。」
さっきよりも不機嫌を露にして、伊武くんは言った。
いつになく、はっきりとした口調で。
「そこのバカに聞いてくれ。俺はこれ以上関与しねぇよ。・・・・違う席行くぞ、神尾。」
跡部くんはそう言って、神尾くんを連れて席を立った。
神尾くんはワケがわからないという顔をしながらも、跡部くんについて行った。
2人が離れて行き、伊武くんが俺の方を向いた。
「・・・・・・・・あのね、俺、伊武くんに、謝らなきゃいけないんだ。」
俺は覚悟を決めて、口を開いた。
「何で。」
冷たい目で俺を見る伊武くん。
「嘘、ついたから。」
「嘘?」
「そう。だから、ごめんね。」
「・・・・・・・・・。」
俺がついた嘘がなんなのかわからないらしく、伊武くんは、ジッと俺の顔を見た。
「・・・・・・俺が、好きなのは、神尾くんじゃないんだ。」
「え?」
「俺が好きなのは・・・・伊武くんだよ。」
真っ直ぐに伊武くんの目を見つめ、そう言った。
伊武くんの目が驚きで大きく見開かれる。
「俺は伊武くんが好きです。だから、俺とお付き合いしてください。」
俺は緊張で震える手を膝の上で握り締めた。
「・・・・・・・わけわかんない。」
伊武くんがボソッと言った。
「・・・アキラのことが好きだって言うから、諦めたのに・・・・」
「えっ?」
伊武くんは言ってから、後悔したように俯いた。
「それって・・・・伊武くんも俺のこと好きだって事?」
俺が詰め寄ると、伊武くんは観念したように小さく頷いた。
「ていうか・・・聞き返さなきゃ分からないなんて、相当、理解力ないんじゃないの・・・大体、何で嘘つく必要があるのかなぁ・・・・・・」
伊武くんがぼやき始め、俺はただただ謝った。
そして、この幸せな瞬間をかみ締めた。
「は・・・はは・・・ありがとう、伊武くん!」
頭を下げると、嬉しさのあまり、涙が一粒、ポツリと膝の上に落ちた。
*おわり*
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+あとがき+
いまいちよくわからない話になってしまいました。
ちょっとは甘くなったでしょうか・・・?