心の花




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「暇・・・」


今は放課後で、俺は何故か、テニスコートに来ている。
侑士が練習を見に来てくれとうるさいから来てやったは良いものの、俺の周りには奴らのファンの女たちがずらっと並んでいて落ち着かない。
それに、俺はテニスに興味がないから、見ていてもつまらなさすぎる。


「暇ー・・・ふぁ〜あ」


フェンス脇の木陰に座り、ぼんやりと練習風景を眺めているが、何しろ面白くないので退屈だし、かなり眠い。


「・・・・・・はぁ。」


木の幹にもたれかかり、体育座りをして膝を抱えた。
チャリ、と小さく音を立てて左手首にはめてあるシルバーのブレスレットが揺れた。
これは、先月の俺の誕生日に侑士からもらったものだ。しかも、侑士とお揃いらしい・・・。

友達から恋人へと関係が変わって初めてのイベントが俺の誕生日だった。
“男が恋人に身につける物を贈るときは・・・”と、以前、クラスの女子が話していたのを聞いて、俺もあの日以来、覚悟は決めていたが、未だに何もない。


「・・・つーか、エッチどころかキスすらしてねぇし・・・」


抱えた膝に顔を埋めて、ポツリとこぼす。
付き合い初めて3ヶ月が経つけれど、キスをした回数は片手の指で足りてしまう。


「・・・何なんだよ。わけわかんねぇ・・・」


毎日飽きもせず、好きだ好きだと言ってくるくせに、二人きりになっても全然甘い雰囲気にならない。


「何ぶつぶつ言っとるん?」


頭上から耳慣れた関西弁が聞こえ、俺は顔を上げた。


「侑士・・・・・何でもねぇよ。お前、練習は?」


「今、休憩入ったとこや。」


そう言われて、テニスコートに目を向けると、確かに皆、ドリンクやタオルを持ってあちこちに散らばっていた。


「ふぅん。・・・・ちょうど良いや、俺帰るから。」


俺は脇に置いておいたカバンをつかんで立ち上がった。


「えっ!何でやの?何で帰るん?」


侑士がオロオロとしている様が面白い・・・・って、なに暢気なこと考えてんだ俺は!?


「俺テニス知らねぇから、見ててもちっとも楽しくねぇんだよ。じゃあな、また明日。」


侑士に捕まる前に、そそくさとテニスコートから離れ、帰路についた。




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