第一話



よく晴れた四月最初の日曜日。
小学校の卒業式から三週間が経ち、少し長い春休みを満喫していた俺は夕方帰宅した。


「ただいまー!!」


明日は中学校の入学式で、今日その中学の制服が家に届く日だった。
俺が通うことになった氷帝学園中等部はいわゆるお坊ちゃま校で有名だ。
小学校までは公立の学校に通っていた俺にとって、私立の学校というのは未知の世界で、少しだけ不安がある。
父さんは最初から氷帝に通わせたかったらしいが、ちょうど幼稚舎受験のときに母さんが亡くなり、受験どころじゃなくなってしまったのだった。
コツコツと勉強をしてきたお陰で、中等部には難なく入ることが出来た。


「おかえり。制服届いたぞ」


自室に向かうために階段を昇りかけたとき、階段口の向かいにある仕事部屋から父さんが顔を覗かせた。


「わかった」


俺は頷き、階段を駆け上がった。
自室に入り、机の上に置かれている長方形の包みを見つけた。
嬉々として封を切り、蓋を開いて俺は硬直した。


「・・・・・・・・・・・・・」


パタ、と蓋を閉めて深呼吸をする。
もう一度ゆっくり蓋を開けて中を確認し、自分の目が間違っていないことを知る。


「・・・・・・・何だコレ・・・・」


まず最初に目に付いたのはブレザーだった。
ボタンがついている位置が、自分が着ているシャツのボタンの位置と逆に見える。
いや、見えるのではなく、実際にその通りなのだが。


「・・・・・・どういうことだ?」


男物の服は左前だ。
だがこのブレザーは右前になっている。
俺はブレザーを取り出し、更なる衝撃を受けた。
ブレザーの下に入っていたのはチェック柄のプリーツスカートだった。


「何でだ・・・・」


箱から全てを取り出し、カッターシャツも女物だということを知る。
そして、包装紙の宛名は間違いなく自分の名前になっている。


「〜〜〜〜〜っ!!!」


俺は制服一式を引っつかんで部屋を飛び出した。
階段を駆け下り、父さんの仕事部屋のドアを蹴り破る。


「親父!!」


これだけ大騒ぎをしているというのに、父さんはそ知らぬ顔でパソコンに向かっていて、全然こちらを振り向かない。


「親父!!」


早足で近寄り、肩を掴んでその顔を覗くが、父さんはすっと目をそらした。


「・・・・・・・・・父さん」


「・・・・・・・・・・・」


こんなに近くで呼んでいるのに聞こえないわけはない。


「お父さん」


「・・・・・・・・・・・」


呼び方を変えてみるが、反応はない。


「・・・・・・・・っ!!パパ」


この呼び方だけはしたくはなかった。


「何だい?」


すると、父さんはニコニコ笑って俺を見た。


(この狸親父!!!)


「この制服何だよ!?」


「何って、氷帝学園の制服じゃないか。先週採寸したばかりなのにもう忘れたのか?」


「そういう意味じゃねぇ!!何で女物なのかって聞いてんだ!!」


「あぁ・・・・・言い忘れていたが、お前は明日から女の子ということになっている」


「はぁ!?」


「入学に必要な書類は全て女として出したから」


「・・・・・・・待て。俺は男だぞ」


「うん。だが、明日からは女だ」


「何で!?」


「せっかく死んだママに似て可愛い顔をしているし、女の子でもおかしくない名前なんだから、コレを使わない手はないだろ?」


「いやいやいやいや・・・・・意味わかんねぇよ!!」


百歩譲って、母さんにそっくりの女顔だということも、男女どちらでも使えそうな名前であることは認めよう。
どちらも母さんの形見だから、そこは否定しない。

が・・・・

それと俺が女として学校に通うこととどう繋がるのか教えてもらいたい。


「氷帝の教師にな、パパの友達がいるんだが・・・・・ずっとお前のことを女の子として自慢していたんだ。だから、是非会ってみたいと言われてなぁ」


「何だそれ!?ふざけんな!!」


たったそれだけのことで俺の人生変えられてたまるか!!


「どうせ今からじゃ手続きに時間かかるから、明日の入学式はそれを着て行ってもらうしかないよ」


「んなっ・・・・」


「出来ることなら手続きしたくないけどねぇ・・・・・まぁ、声変わりしたら変えてあげるよ」


飄々と言ってのける父さんにこれ以上ないくらいの殺意を抱いた。


「・・・・・・・・・・・・・・死ねクソ親父っ!!!」


俺は制服を思い切り父さんの顔目掛けて投げつけた。




こうして、俺の波乱万丈な中学校生活が始まった。



第二話


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+あとがき+

どうしようかと悩んだ結果、こんなふうになりました。
このシリーズ、何とか続けていきたいと思いますので、気長にお付き合いください。