第二話
入学式当日の朝、父さんの手によって俺は制服に着替えさせられた。 絶対に着るもんかとベッドで布団に包まっていたのだが、部屋に乱入してきた父さんによってあっという間に布団を剥がされ、女物の制服を身に着けられた。 元々少し長めの髪だったため、髪型は少しいじっただけで、ほとんど素のままだった。 もちろん化粧なんてものもしていない。 本当に大丈夫なのだろうかと思うが、父さんは自信たっぷりに笑うだけだった。 「はぁ・・・・・」 せめてスカートの下に短パンか何かを履かせてくれと懇願し、何とかスパッツを履く許可をもらった。 しかし、ヒラヒラと裾が翻るたびに落ち着かない。 「くれぐれも男だと気づかれないように気をつけなさい」 氷帝学園の校門前に着くと、父さんはもっともらしくそう言って、いそいそと体育館へ向かって歩いていった。 「帰りてぇ・・・」 同じ制服を身に着けた女子生徒やちゃんとした男物の制服を身に着けた男子生徒らが俺の横を通り抜けていく。 体育館の入り口まで行くと、入り口脇に並べられた机に先輩らしき生徒が数人座っており、その隣に教師が一人立っていて、体育館に入っていく新入生たちに声をかけて何かを手渡していた。 「入学おめでとうございます」 列に並んで机の前に立つと、先輩が笑顔で何かの冊子を手渡してくれた。 「中にクラスが書いてあるから、自分のクラスの席に座ってね。座る順は自由だよ」 「・・・・ありがとうございます」 俺は冊子を受け取り、中を読みながら講堂へ入った。 俺の名前はA組に書かれていた。 もちろん女子の欄だ。 「・・・・・・・チッ」 小さく舌打ちをすると、前を歩いていた男子生徒が不思議そうに振り返った。 俺はその男子生徒に愛想笑いをして見せて、A組の席へ向かった。 「ここか・・・・」 出来れば一番後ろに座りたかったのだが、A組の席はほとんど埋まっていて、俺は出遅れたことに気がついた。 もう一番前しか空いていない。 「仕方ない・・・・」 俺は諦めて一番前の席に座った。 隣には偉そうにふんぞり返った男子生徒が座っている。 しかも、チラッと見ただけでも、綺麗な顔立ちをしているとわかった。 (目立つ奴の隣に座るなんて嫌だな・・・) 他に空いていなかったから仕方ないとはいえ、俺は本当に運がなさすぎる。 「・・・・お前、名前は?」 不意に隣の男子生徒が俺に声をかけてきた。 「人に名前を聞くときはまず自分から名乗るもんじゃないの?」 女の子っぽい口調がよくわからず、普段より少し丁寧な言葉を使った。 「ハッ・・・・おもしれーな、お前・・・・」 「・・・・・それはどうも。で?」 「俺様は跡部景吾だ」 ・・・・・・・俺様? 思わず噴出しそうになって、必死でこらえた。 素で俺様とか言う奴ってどーなの。 突っ込みたいけど、今は我慢しなければならない。 後ろの保護者席に父さんがいる限り、俺は素に戻るわけにはいかない。 「・・・・・・」 「、な。覚えておいてやるよ」 跡部はそう言ってニヤリと笑った。 コイツは絶対女たらしだ。 そう確信した。 『・・・・・・・これより入学式を始めます』 壇上で教師がマイクを通してそう告げると、騒がしかった講堂内がピタリと静かになった。 校長の祝辞やらが終わり、新入生代表挨拶になった。 『新入生代表、跡部景吾くん』 司会者の教師が名前を告げると、隣の跡部が立ち上がって壇上へ上がっていった。 (アイツ、頭良いのか・・・・) 新入生代表というと、大抵主席入学の生徒が選ばれる。 ということは、自分を俺様とか言うような奴でも頭が良いということになる。 (・・・・・・・変な奴) そう思った矢先、跡部は更に変な発言をした。 『なかなかいい学校じゃねーか。後ろの在校生の中にテニス部のキングはいるか!?』 挨拶なんてものじゃない。 講堂内が少しざわついた。 『今日から俺様がキングだ!』 その発言に呆然としている間に、何やらゴチャゴチャ話して、満足げに跡部は壇上から降りてきた。 俺の前を通り過ぎるとき、跡部がニヤリと笑った気がした。 (やっぱり変な奴だ・・・・・) 俺はこの先一年間、同じクラスで過ごすことに不安を覚えた。 第一話← →第三話 戻る +あとがき+ 40.5巻のあの話に繋げられるか不安でしたが、何とか繋がりました。 OVAの内容も踏まえて書いていく予定です。 |