第七十三話



店からしばらく歩いたところでハッと気づいた。


「ご、ごめんなさい!」


パッと手を放し頭を下げる。


「あと、ありがとう。ごちそうさま、です」


動揺のあまり何を話さなければならないのかがわからなくなる。


「……忍足、くん?」


忍足が何も答えてくれないことに不安になり、顔を見ると、忍足は片手で口許を押さえて肩を震わせている。
まさか具合が悪くなったのでは、と戸惑った。


「お、忍足くん?大丈夫?ど、どうしよう……」


オロオロするばかりで、どうしたら良いのか何も思い付かない。


「ふ……」


口許を押さえている指の隙間から息が漏れる。
そして、忍足は突然笑い出した。


「ふ、はははっ」


「え?」


「ああ、もう。これは言わんとこうと思ったのに。ホンマ、さん可愛いわ」


「は?」


忍足は楽しそうに肩を震わせながら笑っている。


「か……からかってるの?」


「ちゃうちゃう。ホンマのことや。外見のこともそうやけど、中身も可愛い。こりゃ、ジローも岳人も懐くんがようわかるわ」


何度も可愛いを連発されて、頭の中がショートしそうだ。
何でここでジローや岳人の名前が出てくるのかわからない。


さんが、周りから可愛い言われるんは嫌いやってわかっとるけど、言いたくなる人の気持ちもわかるんや。嫌な気分にさせたらごめんな」


反射的に、嫌じゃない、と思ってしまった。
他の人に言われれば嫌だけれど、忍足に言われるのは純粋に嬉しかった。
そんなこと言えるはずもないけれど。


「さてと。次はどこ行こうか?」


忍足はあっさりと話題を変えた。
もう先程みたいな笑い方はしていない。


「……どこでも良いよ。忍足くんの行きたいところで……」


まだ一緒にいられるのかと嬉しくなった。


「そう?どこがええかなぁ……」


ゆっくり歩き出した忍足の隣に並ぶ。
思案するその横顔をこっそり見つめながら、やっぱり俺は忍足が好きだと再確認した。



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+あとがき+

進展したんだかしていないんだか、といった感じになりました。。。
クリスマス編はこれで終わりです。