第七十二話



「はい。ランチタイム限定サービスよ」


食事が終わるころを見計らって、優紀ちゃんがチョコレートケーキを持ってきた。


「これは甘くないから大丈夫よ」


優紀ちゃんが言うなら間違いないだろう。


「ありがとう」


優紀ちゃんが去っていき、俺たちはケーキを食べた。
そのケーキもあっという間に食べ終わる。


(……この後はどうするんだろう)


このまま帰る、ということになるのだろう、と予想してがっかりする。


「なぁ、さん」


不意に忍足に名を呼ばれ、何かを差し出された。


「え?」


差し出されたものは細長い四角の箱。


「クリスマスプレゼントや。今日、付き合うってくれたお礼を兼ねて、な」


「え……」


驚きすぎて言葉にならない。


「……ありがとう。あ、あのね……」


俺はカバンから一つの包みを出した。
俺が忍足にあげようと思って用意したクリスマスプレゼント。


「これ、忍足くんに……」


「えっ?ホンマに?」


驚いたらしい忍足は目をぱちくりさせている。


「おおきに。開けてもええ?」


「う、うん。私も、開けて良い?」


「ああ、ええよ」


お互い、丁寧に包装を開ける。
俺が忍足に用意したものは、散々悩んだ挙句、マフラーだった。
そして、忍足が俺に用意してくれたのは……


「……ロケットペンダント?」


シルバーのシンプルなロケットペンダントだった。
先日、クラスメートの女子に壊されたものと似たデザインのもの。


「この間の壊れてしもうたペンダントに似とったから買うてみたんやけど、気に入らんかったら捨ててくれてええよ」


「そんなことない!!」


自嘲するように笑う忍足へ即座に否定する。


「ありがとう、忍足くん」


嬉しくて泣きそうになる。
写真はネガがあったから何とかできるが、壊れたペンダントは母さんの形見で、もう二度と手に入らない。
古いものだったから決して綺麗なものではなかったが、その小さな傷の一つも愛しかった。
あの日、本当はアイツらを殴りたかった。
でも、できなくて、家に帰ってから悔しくて泣いた。
夜中にこっそり仏壇の奥に隠し、母さんに詫びたけれど、胸の奥がずっとモヤモヤしていた。
もちろん、何か別のものが代わりになるわけがない。
だけど、俺がショックを受けていたことに気づいて、それを慮ってくれたことが嬉しかった。


「喜んでもらえて良かったわ。ほな、出ようか」


忍足は俺が贈ったマフラーをその場で巻き、元々巻いていたマフラーを包みに入れてしまった。
俺もペンダントを着けてみる。
鏡がないので似合うかどうかはわからないが、何だか胸があたたかくなる。
空になった箱を鞄にしまい、席を立った。


「ごちそうさまでした」


そんな声に気づき忍足の方を見ると、忍足は二人分の会計を済ませていた。


「えっ、あ、自分の分は払うよ」


慌てて駆け寄り、財布を出そうとするが、ニッコリ笑った忍足に制止される。


「そんなんええよ」


「でも……」


映画を観て、プレゼントを交換して、食事を奢ってもらって……これではまるでデートのようだ。


ちゃん、そのペンダント、とっても似合ってるわよ。良かったね」


優紀ちゃんが横からそんな風に言ってきて、俺は顔が爆発しそうなくらい恥ずかしくなった。


「じ、じゃあね、優紀ちゃん……ごちそうさまでしたっ」


とっさに忍足の手を引いて足早に店を出た。



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