記憶のカケラ
+3+
朝食が済むと、俺たちはすぐに湖へと向かった。
昨日、俺と侑士がいたところよりも奥へ入っていったところに、湖はあった。
「あ、着いたね。」
俺たちより少し先を歩いていた滝が立ち止まり、俺は早足で滝の隣に並んだ。
「すげ・・・」
辺り一面に広がる大きな湖。
水面に差し込む朝の光が、キラキラと反射している。
「綺麗だな・・・」
「・・・・・・・・はい。」
ゆっくり歩いていた宍戸と長太郎が俺たちに追いつき、ボソリと感想を述べた。
「・・・岳人、向こうの方に行ってみようか。」
滝がコッソリ俺にそう言った。
宍戸と長太郎を二人きりにしたいらしく、それを汲み取っているのか日吉も宍戸たちから離れたところにいた。
「うん。」
俺と侑士のことで落ち込んでいる長太郎。
そんな長太郎の沈んだ気持ちを浮上させられるのは、宍戸しかいないから。
じゃあ、俺の沈んだ気持ちを浮上させてくれるのは一体誰なんだろう・・・。
考えれば考えるほど、頭に浮かぶのはただ一人の人物。
「風が気持ちいいね。」
緩やかに吹いている風を全身で感じながら、隣を歩く滝が言う。
滝には申し訳ないけれど、侑士と二人で来たかったと思う。
やっぱり、俺は侑士が好きだから、どんな時でも、侑士と一緒にいたいと願ってる。
たとえ、侑士の中に、俺という人間の存在がなかったとしても・・・
「・・・・・あれ?」
不意に、滝が立ち止まった。
「あんなところに、祠がある。」
滝がそう言って指差した先に、小さな祠が見えた。
祠の前にはいつの間に移動したのか、日吉が佇んでいて、じっと祠を見つめながら何かを考え込んでいるようだった。
「・・・日吉、どうしたんだろうね。行ってみようか?」
「・・・うん。」
滝の言葉に頷きながら俺は、何故か祠に引き寄せられているような感覚を覚えた。
こっそり滝の顔を窺ってみても、滝は全然普通のようで、特に疑問を抱いている様子はなかった。
「何の祠だろう・・・」
日吉の隣に立った滝は、首をかしげながら祠の前に屈んだ。
だけど、俺はその祠に近づくのを躊躇った。
―――ガサッ
そのとき、祠の脇の茂みが音を立てて揺れた。
「っ!?」
昨夜のようなことが起こるのかと思い、身構えると、姿を現したのは30代くらいの男性で、跡部の別荘の使用人だった。
「なんだ・・・」
ホッと息を吐いて、肩の力を抜く。
よく見ると、その使用人は小さな花を持っていた。
「その花、どうするんですか?」
滝が問いかけると、使用人は、
「お供えするんですよ。」
と答えた。
「「お供え?」」
俺と滝は顔を見合わせて首を傾げ、日吉もまた不思議そうに眉を寄せた。
「えぇ。こちらの祠にお供えするんです。」
使用人がそう言って祠の前に屈み、花を供えて、手を合わせたため、俺たちもそれに倣って屈んで手を合わせた。
「・・・・・・・・ありがとうございます。」
しばらくすると、使用人がポツリとそう言って立ち上がった。
「・・・・・この祠についてお話を聞かせていただいても良いですか?」
滝がそう問いかけた。
「えぇ、構いません。」
使用人は頷き、話し始めた。
「・・・・・今から、50年ほど前になります。この湖で、若い女性が亡くなったのです。その女性には、何年もお付き合いをしていた男性がおりました。結婚の約束も交わしていたのですが、互いの両親に反対され、結婚をすることが出来なかったのです。そして、二人はこの湖で心中したそうです。しかし、男性だけが奇跡的に助かり、女性だけが亡くなってしまったのです。」
その話を聞いている間、俺はずっと寒気がしていた。
小刻みに震える体を必死で抑え込む。
「・・・・・その生き残った男性は、どうなったんですか?」
俺は使用人にそう問いかけた。
「・・・・・・・男性は、恋人がなくなって間もないと言うのに、違う女性と結婚したそうですが・・・・その後の行方はわかりません。」
使用人は悲しそうに眉を顰めた。
『・・・・酷いわ!』
突如、頭に響いた女の声。
『信じていたのに・・・・』
頭が割れるように痛い。
「っ・・・!!」
「岳人?」
グラリと体が傾く。
『裏切り者!!!』
そんな声が聞こえた瞬間、俺は耐え切れず意識を手放した。
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ありきたりなネタですみません。