記憶のカケラ




+4+




―――夢を、見た。






真っ暗な森の中を誰かと歩いている。
手を繋いで、凍えそうなほど冷たい空気の中を歩いている。


『もうすぐだ・・・』


男が呟いた。
俺と、手を繋いでいる。


『そう・・・もうすぐなのね。』


女の声がした。
どこに女がいるのか探してみようと思っても、体は思い通りに動かず、ただただ男の方を見ているだけだった。
暗い所為で、男の顔はハッキリ見えない。
なのに、まるで映画のワンシーンを観ているかのように、目の前を映像が勝手に流れていく。


『あぁ・・・・ほら、着いた。』


その時、男があいている方の手で行く手を示した。
視線が勝手に示された先を見る。
そこには少し開けた場所があり、月明かりに照らされた湖があった。
ぼんやりと見覚えがあるような気がした。どこで見たのか思い出そうとしても、それ以上考えることを抑えつけられているような感覚があった。


『大丈夫かい?』


山道を歩いたために、わずかだけれど息が切れている。


『・・・大丈夫よ。』


女が答え、繋いでいる手をぎゅっと握り締めた。
その手をよく見ると、薬指には銀色の指輪が光っていた。
そして、その手は俺の手ではなく、どう見ても女の手で、これが女の視点であることに気づいた。


『行こう。』


男が促し、二人でゆっくりと湖に向かって歩き始めた。


『・・・・・・綺麗ね。』


湖のほとりに立ち、女が呟く。


『あぁ・・・・』


男が頷く。


『・・・・・好きよ。ずっと、あなただけが好き。』


女が男を見上げ、そう言った。


『俺も、君が好きだよ。』


男も女を見て、そう言った。


『・・・・生まれ変わったら、また逢おう。必ず、君を見つけるよ。』


男がそう言って女を抱き寄せた。


『・・・えぇ。私も、あなたを見つけるわ。』


女が男の背に腕を回す。


『・・・・・・・行こうか。』


ゆっくりと体を離し、男が言う。


『・・・・そうね。』


女が頷く。
二人はもう一度手を繋いだ。


そして、


ドボンッ


湖に飛び込んだ。


―――暗くて深い、水の底・・・。


手を繋いだまま沈んでいく二人の体。
どこまでも一緒だと、女が男を信じる気持ちが俺の中に流れ込んできた。
しかし、そのすぐ後、異変は起きた。


男の手が女の手から離れたのだ。


『っ!?』


目を開けると、真っ暗で何も見えないはずの水の中で、男の姿がハッキリと見えた。
その瞬間、ドキッとした。
男は何の躊躇いもなく、女の首に手をかけた。
そして、喉元に指を押し付け、力任せに圧迫する。


『ゴボッ!!』


女の口から息が漏れた。
女は男の手を引き剥がそうと必死でもがくが、男の力に敵うはずもなく、段々と意識が薄れていく。
すると、男は、女の左手を掴み、指から指輪を抜き取り、女の体を突き飛ばして水面へと泳いでいった。
薄れゆく意識の中、女は男の姿を見送り、そこで息絶えた。






* * * * * * * * * *






「・・・・・とっ!が・・・・と・・・がく・・・岳人!!」


体を揺さぶれる感覚に、薄っすらと目を開けると、慌てた様子の滝がいた。


「岳人!!よかった・・・気がついて・・・」


滝は安心しきったように脱力し、座り込んだ。


「・・・・・あれ?」


周りを見てみると、そこは跡部の別荘の俺の部屋だった。


「・・・湖の祠のところで話を聞いてたら、岳人、いきなり倒れたんだよ。長太郎に部屋まで運んでもらって、ベッドに寝かせたら急に魘され始めて・・・」


「・・・・・ごめん。迷惑かけて・・・」


俺は申し訳なくなって、謝った。


「いいよ、もう。それより、気分は?悪くない?悪くないんなら、シャワー浴びて着替えなよ。すごい汗だよ。」


滝に言われ、全身汗びっしょりになっていることに気づいた。


「うん。サンキュ。」


俺はベッドから降り、着替えとタオルを鞄から出して、部屋に備え付けのバスルームに向かった。




   




+memo+

これが一番意味不明かも・・・