第四話
入学式から三日が経った。 相変わらず跡部は傍若無人なのに、女子からの人気が半端ない。 学食やら温水プールやら、とにかく学校の設備を跡部の家が寄付したか何かで中学校とは思えないほど豪奢な造りになっていた。 入学式当日に校内案内図を見ながら一通り回ったが、まったく覚えられなかった。 というわけで、俺は今、これまでの人生の中で最大のピンチに見舞われていた。 今は三時間目と四時間目の間の休み時間だが、次の四時間目の授業が体育なので、本当なら更衣室で着替えていかなければならないのだが、俺は男なので女子更衣室には入れない。 そして、学校内では女であるため、男子更衣室にも入れない。 着替えるため、教室からも更衣室からも遠い、人がいないトイレを探して着替えを済ませたが、どこをどう歩いてきたのか記憶になく、校舎の外へ出られなくなってしまった。 「どうしよ・・・・このまま体育の授業サボるか・・・?」 いや、入学して三日目で授業をサボったりしたら目立ってしまう。 最初の自己紹介で、俺は真面目で引っ込み思案な女子を演じたのだから、授業は真面目に出なければならない。 「誰でも良いから通りかかってくれ・・・・」 人がいないトイレまで来てしまったのが仇となった。 準備室くらいしかない上に教室から遠いこの場所を歩いている生徒はいなかった。 キョロキョロと辺りを見回しながら歩き、廊下の角を曲がったところで何かにぶつかった。 「うわっ!!」 まったく予期せぬ出来事に、俺はバランスを崩して転びそうになった。 だが、誰かが俺の腕を掴んで支えてくれたお陰で、転ばずに済んだ。 「ワリィ、大丈夫か?」 目の前には赤髪のおかっぱの男子生徒と長い茶髪をポニーテールにした男子生徒が立っていて、俺の腕を掴んでいるのは長髪の男子生徒だった。 「大丈夫・・・・ありがと・・・・・」 礼を言いながら二人の顔をまじまじと見る。 (この二人どっかで・・・・) 見たことがあるような気がして、記憶を辿った。 「・・・・・・テニス部?」 入学式の日、テニスコートで見た二人だと気づいた。 「そうだけど・・・・何だよ?お前誰?」 おかっぱの男が訝しむような顔で答えた。 「・・・・・A組の、です」 名乗った途端、長髪の男が眉をひそめた。 「A組って、跡部のクラス?」 おかっぱの男に聞かれ、俺は無言で頷いた。 長髪の男は跡部と聞いて、ますます眉間のしわを濃くした。 「へぇ・・・・俺は向日岳人。クラスはE組。こっちは宍戸亮で、同じくE組だぜ」 おかっぱの男が名乗り、後半部分は長髪の男を指しながら言った。 「もうすぐ授業始まるっていうのに、何でここにいるんだ?A組は確か体育館に集まってただろ」 宍戸がそう言って俺の腕を放した。 掴まれたままだったことを、すっかり忘れていた。 「・・・・・ちょっと迷って・・・・二人は何でここに?」 「俺たちはこの先にある社会科資料室に資料を取りに来たんだ。てか、迷子かよ、お前」 「・・・・・・・うん」 向日の言葉に少しイラッとしたが、間違いではないため平静を装って頷いた。 「岳人、俺、を体育館に案内してくるから、資料の方頼む」 「え!?俺一人で運ぶのかよ!?」 「地図だけだから一人で大丈夫だろ。頼んだからな。・・・行くぞ、」 宍戸はそう言って、さっさと歩き出した。 俺は慌てて宍戸の後を追った。 後ろで向日が何か喚いていた。 * * * * * * * * * * 宍戸のお陰で、体育の授業が始まる前に体育館にたどり着いた。 「ありがとう、宍戸くん」 ニッコリと笑って礼を言うと、宍戸は顔を赤くしてそっぽを向いた。 「もう迷うんじゃねぇぞ」 そう言い残して走り去っていった。 「何だ?」 宍戸が顔を赤くした理由がよくわからない。 本鈴が鳴るまで俺は体育館の入り口に佇んでいた。 第三話← →第五話 戻る +あとがき+ 一、二年生の間は誰が何組かわからないので、オリジナル設定にします。 三年生は公式設定どおりです。 ↓オリジナル設定 【一年】 A組 跡部、芥川、主人公 B組 滝 E組 向日、宍戸 F組 忍足 【二年】 A組 跡部 C組 忍足 D組 芥川、宍戸、向日、主人公 E組 滝 |