第五話



体育は二クラス合同で行われるらしく、A組の他にB組の生徒たちもいた。
今日は男女合同授業となっていた。
前半は授業に関する説明で、後半はそれぞれ自由行動となった。
自由といっても体育館の外へ出てはいけないけれど、体育館内でできるスポーツなら何でもやって良いようで、バレーボールやバスケットボール、バドミントンなど、あちこちでそれぞれが思い思いに動き回っていた。


「・・・・・・まぁ良いや」


ほとんどの生徒が幼稚舎からの持ち上がりで、既にグループは出来上がっていた。
俺は誰とも関わる気はなかったので、どのグループにも属さない。
むしろ、女子のグループの中には入りたくなかった。


「・・・あれ、寝てる奴がいる・・・」


隅の方でおとなしくしていようと思い、安全そうな場所を探したら、既にそこでは一人の男子生徒が眠っていた。


「気持ちよさそうに寝てるなぁ・・・・」


一応、今は授業中なのだが、担当教師たちは見て見ぬふりをしていた。
俺はその隣に腰を下ろすことにした。
俺たちがいるところから少し離れたところでは、数人の男子たちがバスケットボールをやっていた。
俺は何とはなしにその光景を眺めた。
ふと膝の上に何かが乗ったような気がして、下を見ると、隣で寝ていたはずの男が 俺の膝に頭を乗せていた。


「え・・・・・何だよコイツ・・・」


わけがわからず、とにかく起こそうと体を揺さぶるが起きる気配がない。


「起きろよー・・・・・」


体操服に縫い付けられた名札で男の名が芥川ということがわかった。
しかも同じA組だ。


「なぁ、芥川・・・・くん・・・・起きてよ、ねぇ・・・」


うっかり地が出るところだった。
咄嗟に取り繕って、言い直す。
芥川は起きる気配がない。
無理やり頭を降ろしてやろうかと、腕に力を入れた。


「危ない!!」


切羽詰った声が聞こえた。
その声と、俺が芥川を押して体をずらすのがほぼ同時で、直後、すぐ脇の壁にバスケットボールが叩きつけられた。


「・・・・・・・・え?」


俺は芥川の頭を押したままの体勢で硬直した。
男子生徒が一人、慌てて駆け寄ってくる。


「大丈夫だった!?当たってない!?」


駆け寄ってきたのは綺麗に切りそろえられたボブカット(?)の男だった。


「ごめんね、こっちに飛ばないように気をつけてたんだけど、間に合わなくて・・・・怪我は無い?大丈夫?」


焦ったようにまくし立てられて、俺は面食らった。


「・・・・うん・・・・平気・・・・」


「本当に?嘘じゃない?」


ただ近くにボールが飛んできただけなのに、男はとても申し訳なさそうな顔をしている。


「うん、嘘じゃない」


「そう・・・・・良かった、女の子に怪我をさせなくて・・・・」


女?あぁ、そうか・・・・今の俺は女だった。
男だったらここまで心配されることはないだろう。
痣の一つや二つ気にすることじゃないから。


「君、A組だよね?俺はB組の滝萩之介っていうんだ。君は?」


だよ」


「もし、少しでもボールが当たっていて、痣ができたりしてたら、すぐ言ってね」


「え・・・・だ、大丈夫だよ。当たってないから・・・・」


どれだけ心配性なのだろう。
ここまで気にされると、逆に掠りもしなかったことが申し訳なくなってくる。


「本当にゴメンね。それじゃ」


滝はもう一度謝って、ボールを拾って戻っていった。


「変な奴・・・」


滝の背中を見送り、一人ごちた。



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+あとがき+

ジロー&滝との出会い編。ジローは寝てるだけですが。
滝の口調とか良くわかりません。